2009年06月01日

担当者が見たモスクワ(5)舞台裏の音楽家たち[ボリショイ・オペラ]

私のモスクワ到着の後の最初の「緊張の瞬間」は、稀代のドラマティック・テノール、ガルージンと指揮者プレトニョフのリハーサルでした。
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ガルージンは風邪で体調が万全ではなく、モスクワ到着もすでに予定より2日間遅れていました。しかし、私のモスクワ到着の翌日にガルージンが劇場に現われなければ、午後の指揮者プレトニョフとのピアノによるリハーサル、そして夜のオーケストラとの通しリハーサルに欠席となり、12/25の本番の出演が不可能になる、そういう状態でした。もう一人のテノール、ムラヴィツキーは、「もしガルージンが到着しなかった時は、12/24・25の2日間、連続で(!)ゲルマンを歌うことになるので、その心の準備をしておいてほしい」と劇場側から言われていたようです。翌日ガルージンの姿を劇場で見かけた時、日本の取材陣はもちろん「ああ、よかった」と“安堵のため息”をつきましたが、一番大きな“安堵のため息”をついたのは、ほかならぬ、「もう一人のテノール歌手」だったかもしれませんね。 

ガルージンは本番の前日、12/23の15時、約束の時間に劇場に現れました。そしてマエストロ、プレトニョフが現れ、3時間以上に亘るオペラの中で、非常に出番の多いテノール・パートについて、たった20分(!)の非常に密度の濃いリハーサルを行ったのでした。ガルージンがゲルマンのアリアを歌い、プレトニョフがピアニストを前に指揮し、タイミングを確認する…いくつかの重要な箇所の確認が行われましたが、そこでは、ガルージンとプレトニョフそれぞれがチャイコフスキーの旋律に対する自身の考え、または作曲家がこの旋律に込めた思い、そしてフェルマータをどのタイミングまで延ばすか、といった非常にホットなディスカッションが行われたのでした。
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ガルージンのリハーサルの歌を聴いて、もう取材陣は全員「鳥肌が立って」いました。目の前で歌う彼のパワーにあふれた潤いのある声は予想以上にすごいもので、リハーサル室そのものを飲み込んでしまいそうな“歌唱のうねり”に居合わせた者全員が圧倒され、同時に彼のステージの成功を一足早く確信したのでした。
(もちろん、翌々日に行われたガルージン出演の「スペードの女王」の本番のステージが拍手大喝采となったことはいうまでもありません!)

舞台では「狂気のゲルマン」を全身全霊、あらん限りのエネルギーで熱唱するガルージンですが、楽屋にいるガルージンはロシア人としてはやや小柄で、それこそ気のいい紳士だったので、このギャップの大きさも印象的でした。
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バリトンのラデュークには来日に向けてのメッセージを頂きましたが、このメッセージ映像はなんと本番の15〜20くらい前の映像です。
私服で、落ち着き払った彼はしばらく後に数々の難所を歌う本番を控えた歌手には到底見えませんでした。それにしても、ラデュークを含め、本番前に舞台袖に集まったボリショイの歌手たちの最も印象的な姿は、本番前とは思えないリラックスした様子で談笑していたことです。
主役のガルージンをはじめ、ソプラノのポポフスカヤも、ラデュークも、“人間国宝級”のメゾ、オブラスツォーワも、楽屋では意外なまでにほがらかで、またロシアの音楽家は皆そうなのかもしれませんが、主役級の歌手たちが本番の後、日本のように花束と、プレゼントと多くの周りの人に囲まれて会場を後にするということもなく、スグに普段着に着替えて夜の街に消えてゆく、というのも印象的でした。
ここでは、芸術が文字通り「日常」なのかもしれません。

これまで、モスクワとボリショイ劇場とそこにいる芸術家達の姿を書いてきましたが、その間にも時が流れ、レポートに描かれた人々はついに!間もなく日本にやってきます。
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私の目に映った多くの「素顔の芸術家たち」、「ボリショイ劇場」を報告してきましたが、今度は来日した「ボリショイの舞台」を是非皆様自身の目に焼き付けて頂きたいと思います。
スパシーバ、ボリショイ!(ありがとうございました!)

posted by Japan Arts at 19:33 | ボリショイ・オペラ2009>レポート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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