2010年07月13日

大傑作、ベルリオーズ《トロイアの人々》日本初演に寄せて[マリインスキー・オペラ]

激しく色彩豊かなマリインスキー・サウンド 
〜カーネギー・ホールからサントリーホールに上陸〜
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 ベルリオーズ《トロイアの人々》は、いつ聴いても凄い作品であると思う。そのモニュメンタルなテーマといい、シンフォニックなテクスチャーに富んだオーケストレーションといい、ベルリオーズ畢生の大作と呼ぶに相応しい壮麗さには、聴く度に圧倒される。ニューヨークでは幸いなことに、何度かこの大作を聴く機会があったが、ワレリー・ゲルギエフ率いるマリインスキー劇場管弦楽団が今年の3月9日と10日にかけてカーネギー・ホールで行った全曲演奏は、マリインスキーの総合力によってこの曲の魅力を改めて叩きつけてくる、鮮烈な演奏であった。
 この時のマリインスキーの演奏で先ず挙げなくてはならないのは、その合唱の威力だろう。合唱に非常に大きな役割が与えられているこの作品だが、特に第1部『トロイアの陥落』では、冒頭から合唱が主役と言えるほど、大きなウエイトを占めている。マリインスキー合唱団の濃密なアンサンブルは、冒頭の祝祭間に満ちた景から劇的な切迫感があって、一気にエピックな世界に聴衆を誘う。そしてその劇的緊張は、濃く色彩豊かなマリインスキーのオーケストラによって、避けようのない悲劇へと迷うことなく突き進む。
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マリインスキーはまた、第2部『カルタゴのトロイアの人々』における有名なディドンとエネの二重奏のような、オーケストラのセンシュアルな響きがどこまでも続き、胸が張り裂けんばかりの陶酔の世界も、余すことなく表現する。彼らが聴かせる、ベルリオーズのダークな危険さも孕んだ美しさは、ゲルギエフが育て上げたアンサンブル力の、賜物といえるだろう。
 マリインスキー劇場の公演には、いつもその豊富なソリスト陣にも感心させられる。カーネギー・ホールでも、激しくも誠実な表現で最後の長大なモノローグまで歌い通したディドン役エカテリーナ・セメンチュクなど、マリインスキー生え抜きの歌手の活躍に、大喝采が浴びせられた。
 この《トロイアの人々》、カーネギー・ホールでは2夜に分けられてしまったが、日本では一夜のうちに全曲が通して演奏されるという。ゲルギエフが激しくドライヴする濃密なマリインスキー・サウンドは、ベルリオーズの傑作の日本初演に相応しい、緊張感溢れたドラマを奏でるに違いない。
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小林伸太郎(音楽ジャーナリスト、在ニューヨーク)
Photo:田中克佳 

posted by Japan Arts at 15:23 | マリインスキー・オペラ2011>レポート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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