2011年01月31日

舞台神聖祝祭劇《パルジファル》[マリインスキー・オペラ]

wagner.jpg 聖杯、聖槍、共苦―  ワーグナー本人が「舞台神聖祝祭劇」と名づけた《パルジファル》にはさまざまな象徴物や宗教的なメッセージがちりばめられている。だが、その意味をあれこれ考える前に、まずは無心に音楽に身を浸してみてはいかがだろう。お聴きいただく第3幕にはすべての理屈を越えた救いの調べが流れている。とりわけ、その中心に位置する〈聖金曜日の情景〉はワーグナー最晩年の到達点と言ってもよい。かつての愚者パルジファルが、「共苦の心によって悟りを開く」という予言のとおり、救いの徴である聖なる槍を携えて戻ってきた。世界の苦境と荒廃を表すような寂れた冬枯れの野に今や自然が蘇り、花が咲き匂う。寡黙な主人公と言葉を失った宿命の女クンドリーに代わって、聖金曜日の奇蹟を雄弁に言祝ぐのは老騎士グルネマンツ。神の恩寵を告げるバスの慈しみあふれる深々とした声を、壮麗なオーケストラが歌心いっぱいに彩ってゆく……。
 このとき、私たちも登場人物とともに、救いと癒しへの長い道のりを歩んできた感慨を味わうだろう。それも、ここに至る音楽の流れがあってこそだ。弦楽器中心のくぐもった響きと半音階のうねりでパルジファルの迷いと苦悩の旅路を描く〈前奏曲〉。やがて、雪融けを思わせるように柔らかい調べが涌き出し、光がしだいに射しこんでくる……。響きそのものがいわば、乾いた砂に水が沁みこむように、渇いた聴き手の心を潤し、頑なにこわばり閉ざされた利己心を柔らかく解きほぐして、外の世界に開いてくれるのである。
 こうして私たちは春の沃野から聖杯寺院の中に導き入れられることになる。抒情的な前半とは打って変わって、後半は劇的な展開がきわだっている。大伽藍に鳴り響く鐘の音が警報のごとく聖杯騎士団の苦患を伝える場面転換の行進曲。自らの死を願う聖杯王アムフォルタスのモノローグ。そしてすべてが行き詰まったところで、パルジファルが登場して、自らの聖杯王即位と世界の救済を宣言し、ドラマは大団円を迎えるのである。この第3幕、女声の歌は皆無に等しいが、前半をもっぱらリードする福音の語り部グルネマンツ、後半の独白で柔らかな嘆きから頑なな絶望と挑発の表現へと声を高めるバリトンのアムフォルタス、そして自らの心を覗き込むような前半の内省的な呟きと後半の毅然たる凛々しさの歌い分けがきわだつテノールのパルジファルというように、低音を軸にした声の饗宴は男声好きにはこたえられないだろう。さらに忘れてならないのは合唱とオーケストラ。とりわけ幕切れまでの後奏では、夢幻の味わいを醸す合唱ともどもオーケストラも目くるめく転調を重ねながら、高みに登りつめてゆく。このとき舞台では槍によるアムフォルタスの傷の治癒、光を放つ聖杯、平和の象徴として天井から舞い降りる鳩など、次から次へと奇蹟の光景が現出するのだが、視覚的な要素がなくとも、光彩陸離たる万華鏡のような響きが十分にこうした神秘を描きつくしてくれるはずだ。

文:山崎太郎 東京工業大学 教授


≪マリインスキー・オペラ2011来日公演情報≫
ルネ・パーペが出演!
パルジファルの公演情報はこちら

[日程]
2011年2月12日(土) 16:00 東京文化会館 「影のない女」
2011年2月13日(日) 14:00 東京文化会館 「影のない女」
2011年2月14日(月) 18:30 サントリーホール 「トロイアの人々」日本初演!
2011年2月15日(火) 19:00 サントリーホール 「ワーグナーの夕べ」
2011年2月16日(水) 19:00 横浜みなとみらいホール 「ロシア音楽の夕べ」
2011年2月18日(金) 18:30 NHKホール 「トゥーランドット」
2011年2月19日(土) 14:00 NHKホール 「トゥーランドット」
2011年2月20日(日) 14:00 NHKホール 「トゥーランドット」
詳しい公式ホームページへ
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