2011年05月11日

ファビオ・ルイジ 緊急インタビュー [メトロポリタン・オペラ(MET)]

ジェイムズ・レヴァインの代役として日本公演を担うことになったファビオ・ルイジに緊急インタビューを実施しました!
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Q. まず最初に、今回レヴァイン氏が来日できないことになり、ルイジさんにメトロポリタン・オペラ(Met)とともに日本公演を行って欲しい、という話を聞いた時のお気持ちを教えてください。

A. まず初めに、「大きな責任を背負うんだな。」という気持ちになりました。Metは、おそらく、現在世界でもっとも重要なオペラハウス、と言って差し支えないでしょう。そのことだけでも充分なプレッシャーですが、そこへ、マエストロ・レヴァインの代わりで、という“おまけ”がつきますから。
しかしまず、これは私にとって非常に光栄なことです。
さらに、行き先が日本なのです、私の大好きな国。また日本を訪れる機会に恵まれ、これは、嬉しいとしか言いようがありません!

Q. 今回の来日公演の演目は、《ラ・ボエーム》と《ドン・カルロ》ですね。《ドン・カルロ》は、まさにマエストロのMet・デビューを飾った作品だそうですが・・・
A. はい、2005年のことです。Metから「ぜひドン・カルロを」とのオファーをうけ、お引き受けいたしました。

Q. 当時をふり返ると、いま何を思い出しますか?
A. 非常に大切な思い出です、指揮者にとって、Met・デビューということの大きさを、どうかご想像ください。大きな体験でした。しかも、選ばれた演目がイタリアオペラの中でも最重要作品のひとつと評される、ヴェルディの《ドン・カルロ》だったのですよ。ああ、この2005年の仕事は本当に素晴らしいもので、舞台装置・効果の美しさを忘れたことはありまあせん。今でも心に焼きついています。

Q. ですが、もしMetデビューを飾るなら、ほんとうはこの作品でやりたかった・・・というような、いえ、大切な機会なだけに、なにか別の作品への思い入れなどはなかったんですか?
A. ありませんよ! 正真正銘《ドン・カルロ》でMetデビューできて幸せでした。たしかに《ドン・カルロ》は難曲です。重いし、長いし、指揮するほうは、心底大変なのです。けれど、だからこそ、挑む喜びがあります。そのような重要な作品でのオファーだったからこそ、引き受けたい!という気分もなおさら高揚したのです。

Q. そのときの印象を、オーケストラ、合唱、また、劇場のスタッフに関して、それぞれ覚えていたらお話しください。
A. もちろん、Metのオーケストラの評判は知っていました、一流の演奏家集団です。でも友に仕事をするのは2005年のそのときが初めてだったわけです・・・一緒にやってみて「ああ、評判の通りだ、世界最高だ。」と思いましたよ、本当に。そしてこの2005年の印象は、その後、何回ニューヨークに戻ってきても、変わりません。そのたびに彼らの高いレベルを再確認します。メトロポリタン・オペラのオーケストラは世界最高です。そしてここは、世界最高のオペラハウスです。
合唱団員たちに対しても同様です。たいへん積極的で、あらゆることに注意をむけるメンバーで、度量の大きな合唱団です。考え方も行動もとても柔軟です。反応が活き活きしていることにかけてはピカイチです。
彼らはみな、新しいもの、まだ自分たちが知らないものに強い興味を持つ人たちだと思います。彼らの最大の長所は「良いもの、って、なんだろう?」という視点をつねに持っていることでしょう。しかも、そこに余計な先入観がありません。ただね、音楽家は音楽家、世界共通で、アメリカとヨーロッパにあまり大きな違いはないと思います。日本の演奏家の方々もね、同様ですよ。ですが、あえて申せばMetのオケのよさは、高い技術水準でまとまった演奏家たちであること、気持ちが広く、音楽的理解力に優れていることですね。

Q. では、《劇場》という単位で比較したとき、マエストロも数々ご存知のヨーロッパ各地の劇場と、Metとの最大の違いは、なんですか?
A. 劇場のシステムそのものには、これといって違いはないのですが、やはりMetはその仕事の濃さが歴然と違います。なにしろ、1週間に7回もの公演を、シーズンを通してずっとやっているんですから! 年中無休のオペラハウスですよ、世界のほかの場所にはありません、こんなの!ニューヨークだけです。

Q. マエストロはMetに恋してしまったようですね? すっかり惚れ込んでしまって、ついに最近ニューヨークにお引っ越しをされた、と聞きました。
A. その通りです。でも、惚れた理由は複数あります。仕事がデキルだけでなく、性格もいいんですよ(笑)。メトロポリタン・オペラは、人をあたたかく迎え、ヒューマンな空気に溢れている場所です。そして風通しがいいんです。今まさに引っ越しの真っ最中なんですが、とても幸せです。2012年からはニューヨークとチューリヒの二つの場所が、私の仕事の本拠地となります。

Q.  ところで、今回指揮される《ラ・ボエーム》《ドン・カルロ》、どちらもストーリー中ではフランスに題材を取っているとはいえ、イタリアオペラのまさに代表作なわけです。これらのイタリア・グランド・オペラを指揮する際に、とくに難しい点、あるいはそれらを指揮する喜びは、どんなところにありますか?
A. まずわたしがイタリア人であること、自身の“根”がまさにイタリアという国にあることが、これらの作品を理解することの大きな助けとなります。同国人であるヴェルディ、そしてプッチーニと、その感情・感覚を分かち合うことができるからです。彼らがこれらの作品を書いたとき、彼らの心のうちに何があったのかを理解する手引きが“イタリア人の血”の中にあります。私はそれらの作品と“土壌を同じくする”のです。ですので、理解できない、という難しさはまったくありません。そしてさらに、演奏する喜びはひとしおです。

Q. マエストロは、音楽のお勉強も、また重要なキャリアも、そのかなりの部分をドイツ語圏の国で積み上げていらっしゃって、ゲルマンの風土にお詳しいし、馴染んでおられますね。そのようなご自身の半生を経ても“イタリアの血”は薄くはならないのですね?
A. なりません。少なくとも私は、そうならないと信じます。ある個人の人としての“根”は、シャツを毎日着替えるようには、変わったりしないもののはずだ、とね。流れる血の中に、魂の中に、精神の中に、永遠に宿ります。未知の環境にその後、身を置くことによって、視野が豊かなになることはあるでしょう。けれども、そんな経験さえも、奥底にある“根”をさらに際立たせる役割を果たすことになるのでしょう。確かにドイツ語圏での私の経歴は、長かったですし、大切なものでしたし、また音楽家の自分にとても役立つものでした。そのおかげで自分の人間性を深めることもできました。けれど、そのかわりに“根”が変わってしまったかというと・・・いいえ、そんなことはないのです。

Q. 《ラ・ボエーム》でミミを歌われるネトレプコさんとは、すでにご一緒にお仕事をされていますよね?
A. はい。彼女とはもう何回も共演してますし、いつもよい結果を得ています。オペラ公演、コンサート、そして一緒に収録したCDもあります。なにより、彼女自身が素晴らしい歌い手ですから、今回の《ラ・ボエーム》でも信頼して臨みます。

Q.  今回の演出はフランコ・ゼッフィレッリです。ゼッフィレッリ氏といえば、もはやオペラの世界では大御所中の大御所。このような大演出家の舞台を前に指揮されるお立場では、なにか難しい点はあるのでしょうか? 歯に衣着せずに伺いますが、やりづらいことはないですか?
A. やりづらい、という言い方は当たりません。マエストロ・ゼッフィレッリは、大演出家中の大演出家です、しかも、同世代の芸術家のうちで、お元気に活躍されているのはもう、彼だけです。私はやっと近年になって、ジェノヴァでの《道化師》上演に際して近しく知りあうことができましたが、驚くべき知識と、類い稀な感性との持ち主です。彼は人とよく話をし、けして気難しい人ではないです。考えてもみてください・・・あれだけの演出家です、そんな彼が生み出す作品に対して、畏敬の念を持つことすらあれ、やりづらい、とか、自分とは合わない、という異論を差し挟むことなど、ありえません。美的な観点からも、非の打ち所がないじゃありませんか。もちろん良くも悪くも、“伝統的”と評することはできます、けれども、彼の演出は、つねにストーリーを正確に語り、説明するものです。それは、作曲家の楽譜が語りたいところから外れたりはしません。ゼッフィレッリ氏の手が入ることで、それが正しく優雅に行なわれるのです。偉大な演出家以外の何者でもないですよ。
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Q. あまりにも素人的な質問だったかも知れません。ですが、オペラの上演を数々見てきますと、指揮者と演出家が、どちらも優れた芸術家であるがゆえに起こる、音楽と舞台との折り合いの悪さ、という話も、よく伺うものです。それが、よい意味での“せめぎ合い”に昇華されれば素晴らしいと思うのですが。
A.  おっしゃることにも一理あります。表現者であれば、誰もが自分のアイディアを持っています。私には私の発想、これはたしかにあります。他の人の意見とぶつかることもあるでしょう。けれども、それは、マエストロ・ゼッフィレッリのレベルでは話が違いますよ。私はこどもの時から彼の映画になじみ、彼のオペラの舞台に親しみ、つねに尊敬を捧げてきました。あんなに美しい作品群を産みだした方です・・・偉大です。

Q. さて、今回の来日公演ですが、いま、日本がこれだけ災害のダメージを受け、国民すべてが困難な心情にあるとき、あなたのような指揮者をお迎えできることを、私たちはほんとうに喜ばしく感じております。ですが、現実的な話として、今日本にいらっしゃることに、マエストロご自身は個人的にご心配はありませんか? 正直なところをお聞かせください。
A. 私の場合をお話しますと、まず、日本に親しい友人が少なからずおります。震災やその後の状況に関しては、そのような方々から直接ご報告をいただいておりましたので、日本に行く事にはなんの恐怖もありません。それよりも、それらの友人知己の日常について非常に心配しております。また、直接存じ上げない方々のお気持ちも、察すると、胸が痛みます。仕事関係で親しくしている皆様とは、どなたとももう長いおつきあいなので、お互いに情が湧いていますが、そんな皆さんがお心を痛めているということが、私にもいちばん辛いことです。
今、日本は国全体で大変な時期を乗り越えようとしていることを、私たちは知っています。地震と津波、それに続く福島の原子力発電所の状況・・・これら困難のただ中にあるときだからこそ、いま、我々が音楽を携えて日本に伺うことは、人の道にかなったことと信じます。音楽を生業とする我々が、自分たちの存在をみなさんの身近にお見せして、他には何もできないのだけれども、音楽を提供することだけはできる、という事実こそを表明したいと願うのです。それが少しでもみなさんの助けになることを信じて。

Q. そのお言葉を伺って安心いたしました。海外の報道などを拝見しますと、日本国内のそれに比べ、どうしても大筋だけの報道になってしまっているようです。ですので、マエストロはじめMetのみなさんが、事実への誤解から、不要な心配をお持ちではないかと気になっていました。
A. 心配無用です。正確な情報をいただいております。

Q. いままさにマエストロがおっしゃったように、音楽は、ときに奇跡を起こします。絶望にあえぐ人々に希望を与えることもしばしばです。マエストロは、ご自身の身に実際に起こったご経験として、このような“音楽が起こす奇跡”を味わったことがあおりですか?もしありましたら、ぜひ教えてください。
A. 私は、音楽が起こす奇跡は、ささやかなものも含め、私たちの日常で頻繁に起こっていると思うのです。そして、そこから救われるべき悲しみの瞬間、苦しい時期というのも、私たちの人生にはいろいろとあるものです。
私は、3年前に父を亡くしましたが・・・私自身にとって、とても苦しい体験でした。その父が晩年、重い病気と闘っていたときのことです。もはや余命数週間というころ、妻と、当時10歳だった私の息子とで、父の病院に見舞いに通っていた時期に、息子が電子ピアノのキーボードを持って父の病室に行きたいと言ったのです。息子はすでにピアノを習い始めていたのですが、知っていた楽曲のいくつかを、一生懸命、父の枕もとで弾いて聞かせました。僅かな音の小編が部屋の空気を満たしたときに、私たち一家が感じ取った喜びは、まさに“音楽の奇跡”でした。肉体の苦痛を耐え忍んでいた父の表情が、喜びの涙で満たされました。与えられた命のその最後のつらい時間のなかで、父は、おそらく、心が軽く高揚するような気分を味わったのでしょう。

Q. マエストロ・レヴァインの健康状態がすぐれない、ということで、私たちは心配しておりますが、けれども同時に、彼のピンチヒッターとしてマエストロ・ルイジに日本で再会できる、というニュースが舞い込み、また心踊る期待の日を過ごすことができています。もうまもなくの日本へのご到着を心からお待ちしていますね。どうぞ、お気をつけていらしてください。
A. ありがとうございます。私も、皆様との再会をとてもとても楽しみにしています。

Q. そして、このインタビューにお答えくださっているこの時間は、まさにMetの楽屋で、本日の公演にむけてご準備中の時間ですね。ご協力ありがとうございました。今夜のご成功をお祈り申し上げます。
A. 今日の演目は《ナクソス島のアリアドネ》です。よい演奏ができるよう、がんばりますよ。

(通訳:高橋美佐)


  
いよいよ来日間近!!『メトロポリタン・オペラ』2011
http://www.japanarts.co.jp/MET2011/

『ラ・ボエーム』
6月8日(水) 19:00 NHKホール
6月11日(土) 15:00 NHKホール
6月17日(金) 19:00 NHKホール
6月19日(日) 19:00 NHKホール

『ドン・カルロ』

6月10日(金) 18:00 NHKホール
6月15日(水) 18:00 NHKホール
6月18日(土) 15:00 NHKホール

『ランメルモールのルチア』

6月9日(木) 18:30 東京文化会館
6月12日(日) 15:00 東京文化会館
6月16日(木) 18:30 東京文化会館
6月19日(日) 12:00 東京文化会館

『MET管弦楽団 特別コンサート』 売切れ
6月14日(火)19:00 サントリーホール

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