2011年05月12日

インタビュー7 ドナルド・パルンボ(コーラス・マスター)[メトロポリタン・オペラ(MET)]

世界一多忙といわれる、METの合唱団の秘密が分かります!

Q:METの合唱指揮者になってから何年経ちましたか。
― 3年前に就任しました。
それ以前は、シカゴのリリック・オペラに16年間勤めていました。

Q:この3年間で、METにはどのような特徴があると感じましたか。
― 一番の違いは、劇場のスケジュールだと思います。
METが1シーズンで26演目を上演すると、そのうち24演目には合唱が出演します。
シカゴでは1シーズンで約8演目を上演しますので、これは大きな違いです。
公演回数も大変多い上にリハーサルも一日に2回ありますから、少なくともシカゴより数倍は忙しいです。
私たち合唱のほか、オーケストラや大道具、衣装スタッフたちは全ての公演に関わりますので、ソリストたちよりも大忙しですよ(笑)

Q:オペラ・ハウスにとって、基礎をなす合唱の存在というのは非常に重要なお仕事ですよね。
― おっしゃる通り、大変な仕事です。
朝11時から夜の本番が終わるまでオペラ・ハウスにいます。
ソリストが午後のリハーサルに出て本番を迎えるのが通常ですが、合唱につてはリハーサルが朝と午後の2回あり、その日のリハーサルとは全く違う演目を夜の本番で歌うことがよくあります。
合唱のレパートリーとして5〜6つほどの演目を常に用意しておかなくてはならないので、それらを常に同時進行で練習しています。約80人からなる合唱団なのですが、1週間のうち4つの演目を7回上演する場合、ほとんどの団員がそれら全てに出演しています。
その全てを指導することが私の仕事です。私は、アンサンブルはお互いの協力が一番大事だと思っています。
ですから、このようなスケジュールで、長い時間を団員と共有することは、お互いのことを知り、理解を深めていくことができるため、演奏にとても良い影響を与えていると思います。

Q:合唱団のメンバーの年齢層を教えていただけますか。
― 皆さんの詳しい年齢は分かりませんが、メンバーの中には20〜30年ほどMETで歌っている方もいますし、若いメンバーにはMETが初めてという方もいます。
METでの仕事は若い方には難しいかもしれません。なぜなら、先ほどお話したように毎日のようにリハーサルと本番がありますので、声帯がよほど鍛えられていなければ、とても耐えられる仕事ではないからです。
ですから、若いメンバーといっても音楽学校を卒業してから訓練を積んだ方ばかりです。

Q:日本では学生などのアマチュアの合唱指導がとても盛んです。
一流の合唱指揮者であるパルンボさんに是非お聞きしたいのですが、合唱の指導において、一番大事なことは何でしょうか。
― 私としては、合唱のメンバーたち皆にソリストであるように歌って欲しいと思っています。
彼等自身が歌いたいように歌ってもらうことで、歌うことから喜びを得て欲しいのです。
それぞれの歌い方の良いところを採り上げながら素晴らしいものに仕上げていくことが、私の仕事だと思っています。
きっと、歌い方を強制してしまったら、歌うことから喜びを得ることができなくなってしまうでしょうし、完成度も低くなってしまうことでしょう。
楽しく歌うことが、一番重要です!

Q:日本では、一人ひとりが個性を出すよりも、均一でまとまりがあることが求められる事がよくあるので、「ソリストであるように歌う」というアドバイスは素晴らしいですね。
― そうですか。統一されることは最終的にはとても大事なことです。
ですが、最初は皆さんに自由に歌ってもらうことは、私にとっても喜びなのです。
絵で例えるなら、絵の具の色が少ないと選択肢がありませんが、たくさんの絵の具があれば、「ここではこれを使おう」という楽しみができるのです。
ですから、新しいメンバーを採用するときは、ニュートラル歌い方をする方ではなく、ユニークな声でMETに良い影響を与えてくれる方を採用します。サウンド・デザインのようなものですね。

Q:合唱について素晴らしい哲学をお持ちですが、パルンボさんはどこで学ばれたのでしょうか。
― 25年以上前ですが、私はスカラ座の合唱指揮者だったロベルト・ベナーリオさんの元で学びました。
彼はイタリアの伝統的な合唱の哲学をお持ちの方で、一番大事なのはサウンドであるという考え方を持っていました。
言葉の発音や、音が合っているかなど、正確さはもちろん大切なのですが、何よりも大事なのはユニークでインパクトのあるサウンドを作り出すことだという教えでした。私もその教えを引き継いで、ユニークなサウンドを作るよう心がけています。

Q:では次に、オーケストラの指揮者とのコミュニケーションについて教えて下さい。
まず、指揮者とは頻繁に話し合いをされるのですか。
― もちろん指揮者とはよく話し合いをしますよ。
ただ、合唱指揮の仕事は、指揮者が来る前に合唱の準備を終わらせておくことです。
複雑な曲の場合は前もって打合せをすることもあるのですが、大抵の場合は先に準備を進めますので、指揮者が来るまでどうなるか分からないというのは、ひとつの鍵です。
ですから、あらゆる要求に応えられるようにリハーサルでは様々な演奏方法を練習しています。
ひとつの演奏方法に固執せず、柔軟に演奏できることがとても大事なのです。
様々な考え方の指揮者がいらっしゃいますが、どの考え方も私にはとても良い影響を与えてくれます。
お互いの考え方を融合させながら完成させるので、私もメンバーも、そして指揮者にも学ぶことがとても多く、刺激になりますね。METには素晴らしい指揮者が沢山いらっしゃるので、成長するには最高の環境です。

Q:様々な指揮者と一緒に仕事をしていらっしゃいますね。
今、若手指揮者のなかで注目している指揮者はいらっしゃいますか。
― 良指揮者がたくさんいらっしゃいますが、一人だけ挙げるとしたら、ヤニク・ネゼ=セガンでしょうか。彼はMETで新しい「カルメン」を指揮したのですが、エネルギッシュで新しいアプローチを「カルメン」にもたらしました。
彼の指揮は本当にきちんとしていて、是非もう一度一緒に仕事をしたいと思います。

Q:来日公演では「ランメルモールのルチア」をジャナンドレア・ノセダが指揮をしますが、彼の印象を教えて下さい。
― 彼はとても合唱に対して協力的です。
私がMETにきて1年目に「戦争と平和」を上演した際に、彼が2回ほど指揮をしたのですが、リハーサルが無かったにも関わらず、合唱とのアンサンブルは非常にうまくいきました。
彼は、合唱について本当によく理解されている方なのだと思いました。


Q:パルンボさんも日本公演にはいらっしゃいますか。
― もちろん行きますよ、3公演ともに合唱が素晴らしいものばかりなので、楽しみにしていて下さい。

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