2011年05月23日

ヨンフン・リー 緊急インタビュー[メトロポリタン・オペラ(MET)]

Metが全幅の信頼を寄せ、『ドン・カルロ』の主役を託したヨンフン・リー。
ムーティ指揮ローマ歌劇場で上演される、ヴェルディ「レニャーノの戦い」という珍しいオペラのリハーサルという忙しい中、気持ちよくインタビューを受けてくれました。
Lee, Yonghoon 2.jpg

Q. 今回、リーさんを日本にお招きできることを、私たちはとても幸せに感じています。
A. ありがとうございます、私もほんとうに嬉しいです、日本で歌う、という夢が叶います。

Q. 日本にいらっしゃるのは、このメトロポリタン・オペラ・ジャパン・ツアーが初めてでしょうか?
A. そうです、初めてです。日本ではぜひ歌いたいとずっと思っていましたので、興奮しています!

Q. Metから日本ツアーに参加欲しい、という話があったとき、まず、どう感じましたか?
A. とてもハッピーでした。まず、日本に行けること。そして、依頼を受けた演目が「ドン・カルロ」だったことで。Metではすでに「ドン・カルロ」を歌っていますが、また歌えると思うととても嬉しかったですね! そして、これは予期せぬ結果なのですが、じつはもうひとつ、とてもラッキーだったことがあります。私の家族はニューヨークにいるのですが、このところの私の超多忙のせいで、家族全員が不満顔でした。だから、「ローマの仕事が終わったら、ゆっくりみんなで一緒にいようね。」と、約束してたんです。ところが、日本に行くことになってしまった。もう仕方がないので、家族もみんなで日本に来ることにしたのです。そうしたら、みんな「やった!」とばかり、大喜びなんですよ。おかげで家庭不和にならずに済みました(笑)。

Q. Metでは今シーズンに、すでに「ドン・カルロ」で舞台に立たれたのですね?
A. はい。私がニューヨークで歌ったのは、今シーズン初演された新制作のものです。今回の日本ツアーのものは違うプロダクション、Metでとても人気の高いプロダクションです。

Q. リーさんは、プロとしての海外デビューが、まさに「ドン・カルロ」だったそうですが・・・
A. はい、そうです。

Q. 「ドン・カルロ」は、ご自身にとって、とても大切なオペラですか?
A. ええ、大切です。最近「リーと言えば、ドン・カルロ」とまで言っていただくことがあって、嬉しいのですが、国際デビューが「ドン・カルロ」、それに続くヨーロッパ・デビューも「ドン・カルロ」・・・なんです。

Q. ヨーロッパ・デビューはフランクフルトですね。その後、ヴァレンシア、リエージュ、ミュンヘンでも歌っておられて・・・
A. ええ、ほんとうに数多く歌っている作品なんです。もう、正確にどこで何回って覚えていません(笑)。

Q. なぜこの役はそこまでリーさんにピタッとくるのでしょうか? 理由がありますか?
A. とても興味を引かれる人物なのです。ドン・カルロその人は、いくつもの人間関係を紡いで生きています。エリザベッタとは「愛」の絆で、ロドリーゴとは「友」であり「支えとなってくれる人」、フィリッポ2世とは「父であるのに恋敵」という関係で、それぞれと結びついています。そういう、さまざまな関係の違いをすべて、私は舞台上で演じることができるのです。面白いですよね。一人の人間の中にある、異なる面、異なる感覚を表現するのです。そしてそれが、舞台を見ている観客にも伝わっていくのです!音楽は言うまでもなく素晴らしいものです。そして役柄としてもたまらなく面白いです。

Q. 人生の複雑な状況を甘受する役がお好きなのでしょうか? たとえば、「カルメン」のドン・ホセも、もはやリーさんの十八番です。彼もまた、コンプレックスと、叶わぬ愛の状況に苦しみ抜きますね?
A. 人間の内面が受けとめる、ありとあらゆる感覚を表現したい、と思うのです。私たちの毎日では、同じ瞬間にいくつもの感覚や感情が起こっているものですね、ひとつの感じ方だけ、ということではなくて。でも、私たちはそれを他人に悟られまいとします。隠します。ただ、自分を「良い人」に見せてくれる要素だけを、外に出そうとしています。ネガティブなものは抑え込んでしまいますね、実生活では。でも、舞台の上ではそんな制御はいりません。私は、とても自由に、役の人物のあらゆる面を見せる喜びを感じます。観客も、まさにそれを見たいと思ってるでしょう? 私も、そこのところを演じるのがなによりも楽しいのです。私の「カルメン」を、そして「ドン・カルロ」を、いい、と言っていただけるのでしたら、理由はおそらく、そのようなことでしょう。

Q. 俳優としての才能にとてもすぐれていらっしゃるのですよ。
A. そのようでありたい、と、努力はしています。

Q. Met・デビューはどのようにして起こったのか、お話いただけますか? オーディションを受けられたのでしょうか?
A. 「ドン・カルロ」をヨーロッパのあちこちで歌っていたときに、私のエージェントも働きかけてくれまして、Metの担当者の方たちはすでに、私が歌うのを1度ならず聴きに来てくださっていました。たしか、フランクフルトにまず、来てくださっていたと記憶します。幸い気に入っていただいて、Met・デビューの話が持ち上がり、大筋がきまったところで、2008年の新年にいちどちゃんと舞台上でオーディションされて、そして、「ドン・カルロ」でのデビューが正式なものになりました。ヨーロッパの舞台を見てもらったときに、すでに「とても気に入った。」とおっしゃってたのに、やっぱり最後は、用心深いといいますか、いやあ、厳しかったですね。でもその甲斐あって、今シーズンから来シーズンにかけ、Metでは数回歌うことになりました。来シーズンは「ナブッコ」と「カルメン」です。

Q. そんな「長い審査」の期間中、ナーバスになりませんでしたか?
A. とんでもない、ただただハッピーでしたよ。なんというか、「いつかこのときが来るんだ、来るんだ・・・」って思っていたことが、いよいよ起こってる、と思うと、嬉しかったです。

Q. さすがです、失礼しました。
A. なぜかと言いますと、私はニューヨークで音楽を勉強した時期があります。そのとき、何度も何度も、Metにはお客として足を運んでいました。あの建物を見るたびに、「自分もきっと、ここで歌うぞ!」って念じていたんです。「念じれば通ず」ですよ、そう信じておりましたら、ついにその時が来たのです。文字通り「 Wow!(ワオ!)、今がその時なんだ!」 でした(笑)。

Q. 最初に音楽の勉強を始めたのは、韓国でですね?
A. はい。

Q. その後、ニューヨークへ?
A. ええ・・・でも、実は・・・連続してではなく、一時期、歌から離れていた時期があります。

Q. ・・・と、いいますと?
A. その件については、すべて話すと長い長い話になってしまうので、ここでは話しません。が、とにかく、ある時期、歌い続けることに疲れてしまって、もうだめだ、と思ったのです。迷いの中にいたときのことです。私はキリスト教徒なのですが、ある日、教会で祈りを捧げていた時に、神様が「きみは、歌わなければいけない。だってそれが天職なのだから。」という声が聞こえたのです。ええ、たしかに、聞こえたのです。こんなお話、信じてくださいますか?今まで、いろいろな方からインタビューを受けましたが、興味のない人にはまったく受け入れてもらえないので、お話していいものかどうか・・・

Q. 私たちには、興味深いお話です、ぜひお願いします。
A. 信じてくださってもくださらなくても、私には、神様の声が「歌いなさい、私はきみを、歌手になるべく創造したのだからね。」と言ったのが聞こえました。ですから、反論したのです、だめです、私は傷ついてしまって、ぼろぼろです、もう歌えません、と。でもその声は「歌手になってほしくてきみに命を授けたのだから、歌ってもらわないと私は困るよ。」と言うのです・・・そこで私は、しばらく考えてこう言いました。「では、歌ってみます。でも、お願いですから、力を貸してください。」
そして母国からニューヨークに移り、勉強を再開してみたのです。大きな決心でしたけれど。でもそうしたら、そのあとはウソのようにものごとが順調に進むようになりました。素晴らしい先生たちに恵まれ、他の多くのよい出会いにも恵まれ・・・

Q. 貴重な体験を話していただき、嬉しいです。そして、ニューヨークに渡られてからは、さらに邁進されて、いまのリーさんになられたのですね。
A. そうなんです。信じられないくらい順調に、その後はスカラ座からのオファーも届き・・・夢は・・・実現するんですね。

Q. 音楽をお勉強されていたころ、目標にしていた歌手がいましたか?
A. (きっぱりと)エンリーコ・カルーソー、ユッシ・ビョルリング、フランコ・コレッリです。

Q. 正統派、活力があり、そして華がある3人ですね。
A. そうなんです。おわかりいただけるでしょうか、私のめざしている歌唱が・・・

Q. すでにリーさんの歌い方から、それを感じていますよ。
A. そうですか・・・それはそれは(照れ笑い)。

Q. ところで、ヨーロッパやアメリカで舞台に立たれる時に、もし、お感じになっているのでしたら、ぜひ話していただきたいのですが、アジア人としてオペラの舞台に立つことで、得をすること、損をすることがありますか?
A. その質問は、大歓迎です、ぜひ、お話したいことがあります!!(たまりかねたように、爆笑)

Q. ぜひ話してください。日本人の私たちには、興味津々です。
A. いやあ、実にいいところを突いてくれました! 他の方々はたぶん、「いえ、べつに、東洋人でも西洋人でも、同じですよ、違いはないですよ。」と、おっしゃるでしょう? でも、実際は、ありますよ、西洋の環境に東洋人が入ることの不便は! たとえば、私の実際の経験ですと、そのプロダクションの関係者のなかで、自分だけがアジア人であとはみんな西洋人、ということなど、よくありました。単純に言葉の問題にしても、フランス人、イタリア人の方々が、舞台に必要な知識を勉強するのに1時間をかけるとすれば、私は10時間ぐらいかけないと、彼らの知識や文化認識に追いつけないのです。時間的には、絶対的に不利です。ここで、また祈ったんですよ、神様に・・・「オペラ歌手が天職だって言うんなら、なんで韓国人に産んだんだ!」ってね、怒りをぶつけたわけです。

Q. すみません、ちょっと、面白すぎて・・・(笑う)。
A. いえね、本気でそう思いました、どうしてこんなに不利な条件で天職を全うしなければならないのか、わからない、って。だったら最初からイタリア人に産んでくれたらいいじゃないか、ってね。泣きましたよ、ほんとうに辛くて。ところが、そんな状態で何日も泣いた後、またとても不思議なことが起こったのです。ある夜、こんな夢を見たのです。自分がなぜか、オークションの会場にいて、絵画の競売に参加しているんです、で、その絵は開始値では100ドルで、みんなだいたいそのぐらいで競り落とすつもりでいたのです。ところが、そこに年配の紳士が遅れてやってきて、「自分はその絵に1千万ドル出す。」と言うんですよ。絵は当然彼のものになり、そして、彼のためにその絵の価値がまったく変わったわけです。私はしばらく考えて、あの老人がもしかすると神様で、あの絵は私自身で、自分が「自分には100ドルの価値しかない。」と思っていたらそのままだけれど、「本当は1千万ドルの絵なのだから、そこに気づかなければいけないよ。」と言っていたのではないか、と思ったのです。
キリスト教では、すべての信徒は「神の子である」と言われています。そして、それぞれの命に価値があるのです。自分はそれを忘れていたと思いました。自分の値打ちを判らずに、自ら可能性を狭めていたのだ、ということに気づいたのです。人は、国籍がなんであれ、背負った文化がなんであれ、みな素晴らしい価値を持っている。自分で勝手に優劣をつけて我が身の不利を嘆くのは、反対に、傲慢なことではないかと思うようになりました。つまり、それまで悩んでいたことなど、もう、どうでもよくなったのです。「韓国人のヨンフン・リー」という枠をこえて、命そのものの存在として堂々と生きてみよう、と思うようになりました・・・すみません、なんか、大げさでしょうか?(笑)。でもね、そのことがあってから、西洋人の中にひとりだけアジア人として入り、苦労するのも悪くない、と思えるんですよ。たとえば、よい点としては、彼らが1回ですんなり把握できることを、私が10回ぐらい練習しなければならない、としますね。だとしたら、私は、彼らよりもずっと多く、その同じことを少しずつ、深めるチャンスをもっていることになります。

Q. 興味深いお話ですね。そして私たち自身にもあてはまるように思います。ところで、韓国には豊かで素晴らしい声の歌手の方たちがたくさんいらっしゃいますが、なにか秘密があるのでしょうか?
A. 私たちの声のほうが大きな声だ、ということなら、ただ「大きい声」というだけですよ(爆笑)。そうですね、ひとつ、思いつくことは、私もキリスト教徒でしょう、韓国でプロの歌手になる人たちというのは、子供の頃、たいてい教会の聖歌隊で歌った経験があるのです。おそらく、ほとんど全員・・・95パーセントぐらいの人たちが、そうなのです。だから、広い場所で声を響かせる、ということに、そもそも慣れているのだと思います。

Q. では、これで最後の質問にしますね。お話しぶりを聞いていると、リーさんはとても穏やかで、上品な方なんだな、ということがわかりますが、ちょっと、自己分析をしていただいていいですか? ご自分で、自分は静かな人間だと思いますか、それとも、騒がしいですか?
A. いやあ、普段の自分はどうでしょうね(笑)・・・でも歌う時は、私は誇張して歌うことを好みません。自分の芯から逸れずにいることを心がけます。与えられた役に真摯に向かうこと、これがすべてです。舞台上での自己顕示は、意味がないと思うのです。役の、その人物の姿に、ドン・カルロならドン・カルロ、カヴァラドッシならカヴァラドッシの心に忠実に歌います。根拠なく声だけを張り上げることはしません。

Q. シャイなほうですか、それともオープンな性格ですか?
A. 自分では、オープンだと思っています。人の意見をよく聞くほうです。

Q. 今日はほんとうにありがとうございました。日本の観客のかたたちには、今回のMet・ツアーが、ヨンフン・リーを目の当たりにする初めての機会となります。きっとあなたは、多くの日本のオペラファンの心をつかむでしょう。そんな「未来のファン」にむけて、ぜひ一言、来日直前のメッセージを。
A. もちろんです! みなさん、いま私は、ずっと行きたい、行きたいと願っていた日本についに行けることに、とりわけ、みなさんが困難な状況にあられる今の時期にお訪ねできることと合わせて、気持ちが高ぶってきています。世界各地で知りあった日本人の友人達からも、日本ってこんな国なんだよ、という話をたくさん聞いています。滞在中に、できるかぎり多くの人たちと知りあい、語りたいと思っています。私のファンになってくださるかも知れない大勢のみなさん、もうまもなく会えることを、楽しみにしています。

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