2011年12月16日

堀内康雄さん!燦!讃![錦織健プロデュース・オペラ2012“セビリアの理髪師”]

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堀内康雄さんは、楽しい方である。
 一度、あるカルチャーセンターで受け持っていたレクチャー&コンサートに出演していただいたことがあるのだが、教室を埋めた(定員50人ほどの空間に80名!ちかくの方が詰めかけた)受講生の方々が、1時間半の講座のあいだ、ほとんど笑いっ放しだった。
 なにしろ、お話が面白いのだ。高校時代から音楽三昧の生活を送り、慶応大学を卒業後はある大食品メーカーにめでたく就職したにもかかわらず、入社したその日に「サラリーマン不適格」を悟ったという、劇的な音楽家開眼。サラリーマン道をあきらめて、以前からの夢だった歌手の道に邁進、会社のひとたちの目に触れることを承知のうえで、ロビーコンサートなどでも歌っていたという、あっぱれ(失礼!)と言いたくなる開き直り。コンクールにも積極的に挑戦し、好成績を積み重ねてめでたく(!)サラリーマンをやめ、ミラノへ旅立って行った勇気。どれもこれも、『椿姫』の原題である「トラヴィアータ(=道を外れた女)」の男性形、「トラヴィアート」とでも呼びたくなるエピソードなのに、ご本人にかかると、からりと笑ってきいてしまうから不思議だ。ひょっとしてこの明るさこそ、世界的バリトン歌手、堀内康雄を創った重要な要素だったのかもしれない。
 もちろん堀内さんの実力は折り紙つきだ。今現在、真に国際的な実力を備えた、唯一の日本人イタリアオペラ歌手といっても言い過ぎではない。整ったフォームと美声(もちろん声量も十分)、そして表現力の三拍子が揃っているのである。さらに言えば、とかく好不調の波に翻弄されがちな歌手が多いオペラ界にあって、いつでも安心して聴けるまれな存在でもある。これこそ、本当の実力というものだろう。ある演出家によると、歌手は「調子が悪いことがほとんど」だという。それをコントロールできてこそ、名歌手といえるのだ。堀内さんはその点、すでに名歌手というにふさわしいひとなのである。
 堀内さんの美声で、多くのヴェルディの役柄を、そして近年はヴェリズモの名作を堪能してきた。その軌跡を考えると、喜劇オペラの頂点ともいえる『セビリヤの理髪師』はちょっと意外に思えなくもない。ところがご本人は、以前からやってみたかったけれど機会が無かったと、大いに乗り気なよう。性格的にも、喜劇は向いていそうだ。
 実はヴェルディを得意とするバスやバリトンは、名コメディアンでもあることが珍しくない。大悲劇の『リゴレット』と、大喜劇の『セビリヤ・・・』の両方を得意とする、レオ・ヌッチがいい例だろう。今回、堀内さんがその仲間入りをするだろうと思うと、今から浮き浮きと待ち遠しくなってしまうのである。

文:加藤浩子(音楽評論家)
Photo:相澤隆
posted by Japan Arts at 10:38 | 錦織健プロデュース・オペラ>NEWS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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