2012年05月23日

注目のソプラノ、モイツァ・エルトマンの魅力

小林伸太郎(音楽ジャーナリスト)
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 私がメトロポリタン・オペラに通うようになって、いつのまにか20年以上になる。ここ数年思うことは、歌手の世代交代がますます進んでいるなということだ。昨年10月に新演出上演された《ドン・ジョヴァンニ》を見たときも、その感を強くした。《ドン・ジョヴァンニ》のようなポピュラーな作品だと、どの劇場でどの役を、どの歌手が歌うということがだいたい予想がつくものだ。しかし昨年の上演は、METでそれぞれの役を初めて歌う歌手が多くキャストに組まれ、新旧一新、とても新鮮な顔ぶれとなった。ツェルリーナを歌ったモイツァ・エルトマンは、これがMETデビューであった。
 このツェルリーナという役、オペラの中では庶民の若い女性を代表したとても生き生きとした存在なのだが、難しい役だなといつも思う。あまりにもしたたかな存在に作られるのも興ざめだと思うし、それこそカマトト、ブリブリにやられてしまったら、せっかくのモーツァルトのセンシュアルでピュアな音楽が浮かばれない。その点、エルトマンの小細工のないストレートな表現は、多くの観客に好感をもって受け入れられたようだ。
 モーツァルトの音楽はとても美しいのだけれども、そのシンプルで美しいラインを完璧に歌わなければ表現できないという、歌手にとってはとても過酷な音楽でもある。ある有名なソプラノ歌手は、そのストレスに耐えきれず、モーツァルトを歌うことを止めざるを得なかったと話していたくらいだ。エルトマンのスイートで純度の高い声は、彼女が昨今モーツァルトに求められることが多いだろうことを、容易に想像させてくれる。その表現は、重箱の隅をつつくような独りよがりの思い入れではなく、何よりもまずモーツァルトに寄り添おうとする姿勢が感じられて、爽やかだ。もちろん、その可憐な容姿も、劇場では邪魔になるはずがない。
 METでは続けて、ワーグナー《ジークフリート》の森の小鳥としてもキャストされたエルトマン。舞台に本人は登場しない声のみの出演であったが、ある批評家が「鈴のような」と表現した。そんな彼女のピュアな魅力は、日本のリサイタルでも十全に発揮されるに違いない。


モイツァ・エルトマン ソプラノ・リサイタル
2012年6月10日(日) 14時開演 東京オペラシティ コンサートホール
曲目・詳細等はこちらをご覧ください

posted by Japan Arts at 17:09 | オペラNEWS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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