2011年05月23日

ヨンフン・リー 緊急インタビュー[メトロポリタン・オペラ(MET)]

Metが全幅の信頼を寄せ、『ドン・カルロ』の主役を託したヨンフン・リー。
ムーティ指揮ローマ歌劇場で上演される、ヴェルディ「レニャーノの戦い」という珍しいオペラのリハーサルという忙しい中、気持ちよくインタビューを受けてくれました。
Lee, Yonghoon 2.jpg

Q. 今回、リーさんを日本にお招きできることを、私たちはとても幸せに感じています。
A. ありがとうございます、私もほんとうに嬉しいです、日本で歌う、という夢が叶います。

Q. 日本にいらっしゃるのは、このメトロポリタン・オペラ・ジャパン・ツアーが初めてでしょうか?
A. そうです、初めてです。日本ではぜひ歌いたいとずっと思っていましたので、興奮しています!

Q. Metから日本ツアーに参加欲しい、という話があったとき、まず、どう感じましたか?
A. とてもハッピーでした。まず、日本に行けること。そして、依頼を受けた演目が「ドン・カルロ」だったことで。Metではすでに「ドン・カルロ」を歌っていますが、また歌えると思うととても嬉しかったですね! そして、これは予期せぬ結果なのですが、じつはもうひとつ、とてもラッキーだったことがあります。私の家族はニューヨークにいるのですが、このところの私の超多忙のせいで、家族全員が不満顔でした。だから、「ローマの仕事が終わったら、ゆっくりみんなで一緒にいようね。」と、約束してたんです。ところが、日本に行くことになってしまった。もう仕方がないので、家族もみんなで日本に来ることにしたのです。そうしたら、みんな「やった!」とばかり、大喜びなんですよ。おかげで家庭不和にならずに済みました(笑)。

Q. Metでは今シーズンに、すでに「ドン・カルロ」で舞台に立たれたのですね?
A. はい。私がニューヨークで歌ったのは、今シーズン初演された新制作のものです。今回の日本ツアーのものは違うプロダクション、Metでとても人気の高いプロダクションです。

Q. リーさんは、プロとしての海外デビューが、まさに「ドン・カルロ」だったそうですが・・・
A. はい、そうです。

Q. 「ドン・カルロ」は、ご自身にとって、とても大切なオペラですか?
A. ええ、大切です。最近「リーと言えば、ドン・カルロ」とまで言っていただくことがあって、嬉しいのですが、国際デビューが「ドン・カルロ」、それに続くヨーロッパ・デビューも「ドン・カルロ」・・・なんです。

Q. ヨーロッパ・デビューはフランクフルトですね。その後、ヴァレンシア、リエージュ、ミュンヘンでも歌っておられて・・・
A. ええ、ほんとうに数多く歌っている作品なんです。もう、正確にどこで何回って覚えていません(笑)。

Q. なぜこの役はそこまでリーさんにピタッとくるのでしょうか? 理由がありますか?
A. とても興味を引かれる人物なのです。ドン・カルロその人は、いくつもの人間関係を紡いで生きています。エリザベッタとは「愛」の絆で、ロドリーゴとは「友」であり「支えとなってくれる人」、フィリッポ2世とは「父であるのに恋敵」という関係で、それぞれと結びついています。そういう、さまざまな関係の違いをすべて、私は舞台上で演じることができるのです。面白いですよね。一人の人間の中にある、異なる面、異なる感覚を表現するのです。そしてそれが、舞台を見ている観客にも伝わっていくのです!音楽は言うまでもなく素晴らしいものです。そして役柄としてもたまらなく面白いです。

Q. 人生の複雑な状況を甘受する役がお好きなのでしょうか? たとえば、「カルメン」のドン・ホセも、もはやリーさんの十八番です。彼もまた、コンプレックスと、叶わぬ愛の状況に苦しみ抜きますね?
A. 人間の内面が受けとめる、ありとあらゆる感覚を表現したい、と思うのです。私たちの毎日では、同じ瞬間にいくつもの感覚や感情が起こっているものですね、ひとつの感じ方だけ、ということではなくて。でも、私たちはそれを他人に悟られまいとします。隠します。ただ、自分を「良い人」に見せてくれる要素だけを、外に出そうとしています。ネガティブなものは抑え込んでしまいますね、実生活では。でも、舞台の上ではそんな制御はいりません。私は、とても自由に、役の人物のあらゆる面を見せる喜びを感じます。観客も、まさにそれを見たいと思ってるでしょう? 私も、そこのところを演じるのがなによりも楽しいのです。私の「カルメン」を、そして「ドン・カルロ」を、いい、と言っていただけるのでしたら、理由はおそらく、そのようなことでしょう。

Q. 俳優としての才能にとてもすぐれていらっしゃるのですよ。
A. そのようでありたい、と、努力はしています。

Q. Met・デビューはどのようにして起こったのか、お話いただけますか? オーディションを受けられたのでしょうか?
A. 「ドン・カルロ」をヨーロッパのあちこちで歌っていたときに、私のエージェントも働きかけてくれまして、Metの担当者の方たちはすでに、私が歌うのを1度ならず聴きに来てくださっていました。たしか、フランクフルトにまず、来てくださっていたと記憶します。幸い気に入っていただいて、Met・デビューの話が持ち上がり、大筋がきまったところで、2008年の新年にいちどちゃんと舞台上でオーディションされて、そして、「ドン・カルロ」でのデビューが正式なものになりました。ヨーロッパの舞台を見てもらったときに、すでに「とても気に入った。」とおっしゃってたのに、やっぱり最後は、用心深いといいますか、いやあ、厳しかったですね。でもその甲斐あって、今シーズンから来シーズンにかけ、Metでは数回歌うことになりました。来シーズンは「ナブッコ」と「カルメン」です。

Q. そんな「長い審査」の期間中、ナーバスになりませんでしたか?
A. とんでもない、ただただハッピーでしたよ。なんというか、「いつかこのときが来るんだ、来るんだ・・・」って思っていたことが、いよいよ起こってる、と思うと、嬉しかったです。

Q. さすがです、失礼しました。
A. なぜかと言いますと、私はニューヨークで音楽を勉強した時期があります。そのとき、何度も何度も、Metにはお客として足を運んでいました。あの建物を見るたびに、「自分もきっと、ここで歌うぞ!」って念じていたんです。「念じれば通ず」ですよ、そう信じておりましたら、ついにその時が来たのです。文字通り「 Wow!(ワオ!)、今がその時なんだ!」 でした(笑)。

Q. 最初に音楽の勉強を始めたのは、韓国でですね?
A. はい。

Q. その後、ニューヨークへ?
A. ええ・・・でも、実は・・・連続してではなく、一時期、歌から離れていた時期があります。

Q. ・・・と、いいますと?
A. その件については、すべて話すと長い長い話になってしまうので、ここでは話しません。が、とにかく、ある時期、歌い続けることに疲れてしまって、もうだめだ、と思ったのです。迷いの中にいたときのことです。私はキリスト教徒なのですが、ある日、教会で祈りを捧げていた時に、神様が「きみは、歌わなければいけない。だってそれが天職なのだから。」という声が聞こえたのです。ええ、たしかに、聞こえたのです。こんなお話、信じてくださいますか?今まで、いろいろな方からインタビューを受けましたが、興味のない人にはまったく受け入れてもらえないので、お話していいものかどうか・・・

Q. 私たちには、興味深いお話です、ぜひお願いします。
A. 信じてくださってもくださらなくても、私には、神様の声が「歌いなさい、私はきみを、歌手になるべく創造したのだからね。」と言ったのが聞こえました。ですから、反論したのです、だめです、私は傷ついてしまって、ぼろぼろです、もう歌えません、と。でもその声は「歌手になってほしくてきみに命を授けたのだから、歌ってもらわないと私は困るよ。」と言うのです・・・そこで私は、しばらく考えてこう言いました。「では、歌ってみます。でも、お願いですから、力を貸してください。」
そして母国からニューヨークに移り、勉強を再開してみたのです。大きな決心でしたけれど。でもそうしたら、そのあとはウソのようにものごとが順調に進むようになりました。素晴らしい先生たちに恵まれ、他の多くのよい出会いにも恵まれ・・・

Q. 貴重な体験を話していただき、嬉しいです。そして、ニューヨークに渡られてからは、さらに邁進されて、いまのリーさんになられたのですね。
A. そうなんです。信じられないくらい順調に、その後はスカラ座からのオファーも届き・・・夢は・・・実現するんですね。

Q. 音楽をお勉強されていたころ、目標にしていた歌手がいましたか?
A. (きっぱりと)エンリーコ・カルーソー、ユッシ・ビョルリング、フランコ・コレッリです。

Q. 正統派、活力があり、そして華がある3人ですね。
A. そうなんです。おわかりいただけるでしょうか、私のめざしている歌唱が・・・

Q. すでにリーさんの歌い方から、それを感じていますよ。
A. そうですか・・・それはそれは(照れ笑い)。

Q. ところで、ヨーロッパやアメリカで舞台に立たれる時に、もし、お感じになっているのでしたら、ぜひ話していただきたいのですが、アジア人としてオペラの舞台に立つことで、得をすること、損をすることがありますか?
A. その質問は、大歓迎です、ぜひ、お話したいことがあります!!(たまりかねたように、爆笑)

Q. ぜひ話してください。日本人の私たちには、興味津々です。
A. いやあ、実にいいところを突いてくれました! 他の方々はたぶん、「いえ、べつに、東洋人でも西洋人でも、同じですよ、違いはないですよ。」と、おっしゃるでしょう? でも、実際は、ありますよ、西洋の環境に東洋人が入ることの不便は! たとえば、私の実際の経験ですと、そのプロダクションの関係者のなかで、自分だけがアジア人であとはみんな西洋人、ということなど、よくありました。単純に言葉の問題にしても、フランス人、イタリア人の方々が、舞台に必要な知識を勉強するのに1時間をかけるとすれば、私は10時間ぐらいかけないと、彼らの知識や文化認識に追いつけないのです。時間的には、絶対的に不利です。ここで、また祈ったんですよ、神様に・・・「オペラ歌手が天職だって言うんなら、なんで韓国人に産んだんだ!」ってね、怒りをぶつけたわけです。

Q. すみません、ちょっと、面白すぎて・・・(笑う)。
A. いえね、本気でそう思いました、どうしてこんなに不利な条件で天職を全うしなければならないのか、わからない、って。だったら最初からイタリア人に産んでくれたらいいじゃないか、ってね。泣きましたよ、ほんとうに辛くて。ところが、そんな状態で何日も泣いた後、またとても不思議なことが起こったのです。ある夜、こんな夢を見たのです。自分がなぜか、オークションの会場にいて、絵画の競売に参加しているんです、で、その絵は開始値では100ドルで、みんなだいたいそのぐらいで競り落とすつもりでいたのです。ところが、そこに年配の紳士が遅れてやってきて、「自分はその絵に1千万ドル出す。」と言うんですよ。絵は当然彼のものになり、そして、彼のためにその絵の価値がまったく変わったわけです。私はしばらく考えて、あの老人がもしかすると神様で、あの絵は私自身で、自分が「自分には100ドルの価値しかない。」と思っていたらそのままだけれど、「本当は1千万ドルの絵なのだから、そこに気づかなければいけないよ。」と言っていたのではないか、と思ったのです。
キリスト教では、すべての信徒は「神の子である」と言われています。そして、それぞれの命に価値があるのです。自分はそれを忘れていたと思いました。自分の値打ちを判らずに、自ら可能性を狭めていたのだ、ということに気づいたのです。人は、国籍がなんであれ、背負った文化がなんであれ、みな素晴らしい価値を持っている。自分で勝手に優劣をつけて我が身の不利を嘆くのは、反対に、傲慢なことではないかと思うようになりました。つまり、それまで悩んでいたことなど、もう、どうでもよくなったのです。「韓国人のヨンフン・リー」という枠をこえて、命そのものの存在として堂々と生きてみよう、と思うようになりました・・・すみません、なんか、大げさでしょうか?(笑)。でもね、そのことがあってから、西洋人の中にひとりだけアジア人として入り、苦労するのも悪くない、と思えるんですよ。たとえば、よい点としては、彼らが1回ですんなり把握できることを、私が10回ぐらい練習しなければならない、としますね。だとしたら、私は、彼らよりもずっと多く、その同じことを少しずつ、深めるチャンスをもっていることになります。

Q. 興味深いお話ですね。そして私たち自身にもあてはまるように思います。ところで、韓国には豊かで素晴らしい声の歌手の方たちがたくさんいらっしゃいますが、なにか秘密があるのでしょうか?
A. 私たちの声のほうが大きな声だ、ということなら、ただ「大きい声」というだけですよ(爆笑)。そうですね、ひとつ、思いつくことは、私もキリスト教徒でしょう、韓国でプロの歌手になる人たちというのは、子供の頃、たいてい教会の聖歌隊で歌った経験があるのです。おそらく、ほとんど全員・・・95パーセントぐらいの人たちが、そうなのです。だから、広い場所で声を響かせる、ということに、そもそも慣れているのだと思います。

Q. では、これで最後の質問にしますね。お話しぶりを聞いていると、リーさんはとても穏やかで、上品な方なんだな、ということがわかりますが、ちょっと、自己分析をしていただいていいですか? ご自分で、自分は静かな人間だと思いますか、それとも、騒がしいですか?
A. いやあ、普段の自分はどうでしょうね(笑)・・・でも歌う時は、私は誇張して歌うことを好みません。自分の芯から逸れずにいることを心がけます。与えられた役に真摯に向かうこと、これがすべてです。舞台上での自己顕示は、意味がないと思うのです。役の、その人物の姿に、ドン・カルロならドン・カルロ、カヴァラドッシならカヴァラドッシの心に忠実に歌います。根拠なく声だけを張り上げることはしません。

Q. シャイなほうですか、それともオープンな性格ですか?
A. 自分では、オープンだと思っています。人の意見をよく聞くほうです。

Q. 今日はほんとうにありがとうございました。日本の観客のかたたちには、今回のMet・ツアーが、ヨンフン・リーを目の当たりにする初めての機会となります。きっとあなたは、多くの日本のオペラファンの心をつかむでしょう。そんな「未来のファン」にむけて、ぜひ一言、来日直前のメッセージを。
A. もちろんです! みなさん、いま私は、ずっと行きたい、行きたいと願っていた日本についに行けることに、とりわけ、みなさんが困難な状況にあられる今の時期にお訪ねできることと合わせて、気持ちが高ぶってきています。世界各地で知りあった日本人の友人達からも、日本ってこんな国なんだよ、という話をたくさん聞いています。滞在中に、できるかぎり多くの人たちと知りあい、語りたいと思っています。私のファンになってくださるかも知れない大勢のみなさん、もうまもなく会えることを、楽しみにしています。

2011年05月12日

インタビュー7 ドナルド・パルンボ(コーラス・マスター)[メトロポリタン・オペラ(MET)]

世界一多忙といわれる、METの合唱団の秘密が分かります!

Q:METの合唱指揮者になってから何年経ちましたか。
― 3年前に就任しました。
それ以前は、シカゴのリリック・オペラに16年間勤めていました。

Q:この3年間で、METにはどのような特徴があると感じましたか。
― 一番の違いは、劇場のスケジュールだと思います。
METが1シーズンで26演目を上演すると、そのうち24演目には合唱が出演します。
シカゴでは1シーズンで約8演目を上演しますので、これは大きな違いです。
公演回数も大変多い上にリハーサルも一日に2回ありますから、少なくともシカゴより数倍は忙しいです。
私たち合唱のほか、オーケストラや大道具、衣装スタッフたちは全ての公演に関わりますので、ソリストたちよりも大忙しですよ(笑)

Q:オペラ・ハウスにとって、基礎をなす合唱の存在というのは非常に重要なお仕事ですよね。
― おっしゃる通り、大変な仕事です。
朝11時から夜の本番が終わるまでオペラ・ハウスにいます。
ソリストが午後のリハーサルに出て本番を迎えるのが通常ですが、合唱につてはリハーサルが朝と午後の2回あり、その日のリハーサルとは全く違う演目を夜の本番で歌うことがよくあります。
合唱のレパートリーとして5〜6つほどの演目を常に用意しておかなくてはならないので、それらを常に同時進行で練習しています。約80人からなる合唱団なのですが、1週間のうち4つの演目を7回上演する場合、ほとんどの団員がそれら全てに出演しています。
その全てを指導することが私の仕事です。私は、アンサンブルはお互いの協力が一番大事だと思っています。
ですから、このようなスケジュールで、長い時間を団員と共有することは、お互いのことを知り、理解を深めていくことができるため、演奏にとても良い影響を与えていると思います。

Q:合唱団のメンバーの年齢層を教えていただけますか。
― 皆さんの詳しい年齢は分かりませんが、メンバーの中には20〜30年ほどMETで歌っている方もいますし、若いメンバーにはMETが初めてという方もいます。
METでの仕事は若い方には難しいかもしれません。なぜなら、先ほどお話したように毎日のようにリハーサルと本番がありますので、声帯がよほど鍛えられていなければ、とても耐えられる仕事ではないからです。
ですから、若いメンバーといっても音楽学校を卒業してから訓練を積んだ方ばかりです。

Q:日本では学生などのアマチュアの合唱指導がとても盛んです。
一流の合唱指揮者であるパルンボさんに是非お聞きしたいのですが、合唱の指導において、一番大事なことは何でしょうか。
― 私としては、合唱のメンバーたち皆にソリストであるように歌って欲しいと思っています。
彼等自身が歌いたいように歌ってもらうことで、歌うことから喜びを得て欲しいのです。
それぞれの歌い方の良いところを採り上げながら素晴らしいものに仕上げていくことが、私の仕事だと思っています。
きっと、歌い方を強制してしまったら、歌うことから喜びを得ることができなくなってしまうでしょうし、完成度も低くなってしまうことでしょう。
楽しく歌うことが、一番重要です!

Q:日本では、一人ひとりが個性を出すよりも、均一でまとまりがあることが求められる事がよくあるので、「ソリストであるように歌う」というアドバイスは素晴らしいですね。
― そうですか。統一されることは最終的にはとても大事なことです。
ですが、最初は皆さんに自由に歌ってもらうことは、私にとっても喜びなのです。
絵で例えるなら、絵の具の色が少ないと選択肢がありませんが、たくさんの絵の具があれば、「ここではこれを使おう」という楽しみができるのです。
ですから、新しいメンバーを採用するときは、ニュートラル歌い方をする方ではなく、ユニークな声でMETに良い影響を与えてくれる方を採用します。サウンド・デザインのようなものですね。

Q:合唱について素晴らしい哲学をお持ちですが、パルンボさんはどこで学ばれたのでしょうか。
― 25年以上前ですが、私はスカラ座の合唱指揮者だったロベルト・ベナーリオさんの元で学びました。
彼はイタリアの伝統的な合唱の哲学をお持ちの方で、一番大事なのはサウンドであるという考え方を持っていました。
言葉の発音や、音が合っているかなど、正確さはもちろん大切なのですが、何よりも大事なのはユニークでインパクトのあるサウンドを作り出すことだという教えでした。私もその教えを引き継いで、ユニークなサウンドを作るよう心がけています。

Q:では次に、オーケストラの指揮者とのコミュニケーションについて教えて下さい。
まず、指揮者とは頻繁に話し合いをされるのですか。
― もちろん指揮者とはよく話し合いをしますよ。
ただ、合唱指揮の仕事は、指揮者が来る前に合唱の準備を終わらせておくことです。
複雑な曲の場合は前もって打合せをすることもあるのですが、大抵の場合は先に準備を進めますので、指揮者が来るまでどうなるか分からないというのは、ひとつの鍵です。
ですから、あらゆる要求に応えられるようにリハーサルでは様々な演奏方法を練習しています。
ひとつの演奏方法に固執せず、柔軟に演奏できることがとても大事なのです。
様々な考え方の指揮者がいらっしゃいますが、どの考え方も私にはとても良い影響を与えてくれます。
お互いの考え方を融合させながら完成させるので、私もメンバーも、そして指揮者にも学ぶことがとても多く、刺激になりますね。METには素晴らしい指揮者が沢山いらっしゃるので、成長するには最高の環境です。

Q:様々な指揮者と一緒に仕事をしていらっしゃいますね。
今、若手指揮者のなかで注目している指揮者はいらっしゃいますか。
― 良指揮者がたくさんいらっしゃいますが、一人だけ挙げるとしたら、ヤニク・ネゼ=セガンでしょうか。彼はMETで新しい「カルメン」を指揮したのですが、エネルギッシュで新しいアプローチを「カルメン」にもたらしました。
彼の指揮は本当にきちんとしていて、是非もう一度一緒に仕事をしたいと思います。

Q:来日公演では「ランメルモールのルチア」をジャナンドレア・ノセダが指揮をしますが、彼の印象を教えて下さい。
― 彼はとても合唱に対して協力的です。
私がMETにきて1年目に「戦争と平和」を上演した際に、彼が2回ほど指揮をしたのですが、リハーサルが無かったにも関わらず、合唱とのアンサンブルは非常にうまくいきました。
彼は、合唱について本当によく理解されている方なのだと思いました。


Q:パルンボさんも日本公演にはいらっしゃいますか。
― もちろん行きますよ、3公演ともに合唱が素晴らしいものばかりなので、楽しみにしていて下さい。

2011年05月11日

ファビオ・ルイジ 緊急インタビュー [メトロポリタン・オペラ(MET)]

ジェイムズ・レヴァインの代役として日本公演を担うことになったファビオ・ルイジに緊急インタビューを実施しました!
Luisi1.jpg

Q. まず最初に、今回レヴァイン氏が来日できないことになり、ルイジさんにメトロポリタン・オペラ(Met)とともに日本公演を行って欲しい、という話を聞いた時のお気持ちを教えてください。

A. まず初めに、「大きな責任を背負うんだな。」という気持ちになりました。Metは、おそらく、現在世界でもっとも重要なオペラハウス、と言って差し支えないでしょう。そのことだけでも充分なプレッシャーですが、そこへ、マエストロ・レヴァインの代わりで、という“おまけ”がつきますから。
しかしまず、これは私にとって非常に光栄なことです。
さらに、行き先が日本なのです、私の大好きな国。また日本を訪れる機会に恵まれ、これは、嬉しいとしか言いようがありません!

Q. 今回の来日公演の演目は、《ラ・ボエーム》と《ドン・カルロ》ですね。《ドン・カルロ》は、まさにマエストロのMet・デビューを飾った作品だそうですが・・・
A. はい、2005年のことです。Metから「ぜひドン・カルロを」とのオファーをうけ、お引き受けいたしました。

Q. 当時をふり返ると、いま何を思い出しますか?
A. 非常に大切な思い出です、指揮者にとって、Met・デビューということの大きさを、どうかご想像ください。大きな体験でした。しかも、選ばれた演目がイタリアオペラの中でも最重要作品のひとつと評される、ヴェルディの《ドン・カルロ》だったのですよ。ああ、この2005年の仕事は本当に素晴らしいもので、舞台装置・効果の美しさを忘れたことはありまあせん。今でも心に焼きついています。

Q. ですが、もしMetデビューを飾るなら、ほんとうはこの作品でやりたかった・・・というような、いえ、大切な機会なだけに、なにか別の作品への思い入れなどはなかったんですか?
A. ありませんよ! 正真正銘《ドン・カルロ》でMetデビューできて幸せでした。たしかに《ドン・カルロ》は難曲です。重いし、長いし、指揮するほうは、心底大変なのです。けれど、だからこそ、挑む喜びがあります。そのような重要な作品でのオファーだったからこそ、引き受けたい!という気分もなおさら高揚したのです。

Q. そのときの印象を、オーケストラ、合唱、また、劇場のスタッフに関して、それぞれ覚えていたらお話しください。
A. もちろん、Metのオーケストラの評判は知っていました、一流の演奏家集団です。でも友に仕事をするのは2005年のそのときが初めてだったわけです・・・一緒にやってみて「ああ、評判の通りだ、世界最高だ。」と思いましたよ、本当に。そしてこの2005年の印象は、その後、何回ニューヨークに戻ってきても、変わりません。そのたびに彼らの高いレベルを再確認します。メトロポリタン・オペラのオーケストラは世界最高です。そしてここは、世界最高のオペラハウスです。
合唱団員たちに対しても同様です。たいへん積極的で、あらゆることに注意をむけるメンバーで、度量の大きな合唱団です。考え方も行動もとても柔軟です。反応が活き活きしていることにかけてはピカイチです。
彼らはみな、新しいもの、まだ自分たちが知らないものに強い興味を持つ人たちだと思います。彼らの最大の長所は「良いもの、って、なんだろう?」という視点をつねに持っていることでしょう。しかも、そこに余計な先入観がありません。ただね、音楽家は音楽家、世界共通で、アメリカとヨーロッパにあまり大きな違いはないと思います。日本の演奏家の方々もね、同様ですよ。ですが、あえて申せばMetのオケのよさは、高い技術水準でまとまった演奏家たちであること、気持ちが広く、音楽的理解力に優れていることですね。

Q. では、《劇場》という単位で比較したとき、マエストロも数々ご存知のヨーロッパ各地の劇場と、Metとの最大の違いは、なんですか?
A. 劇場のシステムそのものには、これといって違いはないのですが、やはりMetはその仕事の濃さが歴然と違います。なにしろ、1週間に7回もの公演を、シーズンを通してずっとやっているんですから! 年中無休のオペラハウスですよ、世界のほかの場所にはありません、こんなの!ニューヨークだけです。

Q. マエストロはMetに恋してしまったようですね? すっかり惚れ込んでしまって、ついに最近ニューヨークにお引っ越しをされた、と聞きました。
A. その通りです。でも、惚れた理由は複数あります。仕事がデキルだけでなく、性格もいいんですよ(笑)。メトロポリタン・オペラは、人をあたたかく迎え、ヒューマンな空気に溢れている場所です。そして風通しがいいんです。今まさに引っ越しの真っ最中なんですが、とても幸せです。2012年からはニューヨークとチューリヒの二つの場所が、私の仕事の本拠地となります。

Q.  ところで、今回指揮される《ラ・ボエーム》《ドン・カルロ》、どちらもストーリー中ではフランスに題材を取っているとはいえ、イタリアオペラのまさに代表作なわけです。これらのイタリア・グランド・オペラを指揮する際に、とくに難しい点、あるいはそれらを指揮する喜びは、どんなところにありますか?
A. まずわたしがイタリア人であること、自身の“根”がまさにイタリアという国にあることが、これらの作品を理解することの大きな助けとなります。同国人であるヴェルディ、そしてプッチーニと、その感情・感覚を分かち合うことができるからです。彼らがこれらの作品を書いたとき、彼らの心のうちに何があったのかを理解する手引きが“イタリア人の血”の中にあります。私はそれらの作品と“土壌を同じくする”のです。ですので、理解できない、という難しさはまったくありません。そしてさらに、演奏する喜びはひとしおです。

Q. マエストロは、音楽のお勉強も、また重要なキャリアも、そのかなりの部分をドイツ語圏の国で積み上げていらっしゃって、ゲルマンの風土にお詳しいし、馴染んでおられますね。そのようなご自身の半生を経ても“イタリアの血”は薄くはならないのですね?
A. なりません。少なくとも私は、そうならないと信じます。ある個人の人としての“根”は、シャツを毎日着替えるようには、変わったりしないもののはずだ、とね。流れる血の中に、魂の中に、精神の中に、永遠に宿ります。未知の環境にその後、身を置くことによって、視野が豊かなになることはあるでしょう。けれども、そんな経験さえも、奥底にある“根”をさらに際立たせる役割を果たすことになるのでしょう。確かにドイツ語圏での私の経歴は、長かったですし、大切なものでしたし、また音楽家の自分にとても役立つものでした。そのおかげで自分の人間性を深めることもできました。けれど、そのかわりに“根”が変わってしまったかというと・・・いいえ、そんなことはないのです。

Q. 《ラ・ボエーム》でミミを歌われるネトレプコさんとは、すでにご一緒にお仕事をされていますよね?
A. はい。彼女とはもう何回も共演してますし、いつもよい結果を得ています。オペラ公演、コンサート、そして一緒に収録したCDもあります。なにより、彼女自身が素晴らしい歌い手ですから、今回の《ラ・ボエーム》でも信頼して臨みます。

Q.  今回の演出はフランコ・ゼッフィレッリです。ゼッフィレッリ氏といえば、もはやオペラの世界では大御所中の大御所。このような大演出家の舞台を前に指揮されるお立場では、なにか難しい点はあるのでしょうか? 歯に衣着せずに伺いますが、やりづらいことはないですか?
A. やりづらい、という言い方は当たりません。マエストロ・ゼッフィレッリは、大演出家中の大演出家です、しかも、同世代の芸術家のうちで、お元気に活躍されているのはもう、彼だけです。私はやっと近年になって、ジェノヴァでの《道化師》上演に際して近しく知りあうことができましたが、驚くべき知識と、類い稀な感性との持ち主です。彼は人とよく話をし、けして気難しい人ではないです。考えてもみてください・・・あれだけの演出家です、そんな彼が生み出す作品に対して、畏敬の念を持つことすらあれ、やりづらい、とか、自分とは合わない、という異論を差し挟むことなど、ありえません。美的な観点からも、非の打ち所がないじゃありませんか。もちろん良くも悪くも、“伝統的”と評することはできます、けれども、彼の演出は、つねにストーリーを正確に語り、説明するものです。それは、作曲家の楽譜が語りたいところから外れたりはしません。ゼッフィレッリ氏の手が入ることで、それが正しく優雅に行なわれるのです。偉大な演出家以外の何者でもないですよ。
Luisi3.jpg

Q. あまりにも素人的な質問だったかも知れません。ですが、オペラの上演を数々見てきますと、指揮者と演出家が、どちらも優れた芸術家であるがゆえに起こる、音楽と舞台との折り合いの悪さ、という話も、よく伺うものです。それが、よい意味での“せめぎ合い”に昇華されれば素晴らしいと思うのですが。
A.  おっしゃることにも一理あります。表現者であれば、誰もが自分のアイディアを持っています。私には私の発想、これはたしかにあります。他の人の意見とぶつかることもあるでしょう。けれども、それは、マエストロ・ゼッフィレッリのレベルでは話が違いますよ。私はこどもの時から彼の映画になじみ、彼のオペラの舞台に親しみ、つねに尊敬を捧げてきました。あんなに美しい作品群を産みだした方です・・・偉大です。

Q. さて、今回の来日公演ですが、いま、日本がこれだけ災害のダメージを受け、国民すべてが困難な心情にあるとき、あなたのような指揮者をお迎えできることを、私たちはほんとうに喜ばしく感じております。ですが、現実的な話として、今日本にいらっしゃることに、マエストロご自身は個人的にご心配はありませんか? 正直なところをお聞かせください。
A. 私の場合をお話しますと、まず、日本に親しい友人が少なからずおります。震災やその後の状況に関しては、そのような方々から直接ご報告をいただいておりましたので、日本に行く事にはなんの恐怖もありません。それよりも、それらの友人知己の日常について非常に心配しております。また、直接存じ上げない方々のお気持ちも、察すると、胸が痛みます。仕事関係で親しくしている皆様とは、どなたとももう長いおつきあいなので、お互いに情が湧いていますが、そんな皆さんがお心を痛めているということが、私にもいちばん辛いことです。
今、日本は国全体で大変な時期を乗り越えようとしていることを、私たちは知っています。地震と津波、それに続く福島の原子力発電所の状況・・・これら困難のただ中にあるときだからこそ、いま、我々が音楽を携えて日本に伺うことは、人の道にかなったことと信じます。音楽を生業とする我々が、自分たちの存在をみなさんの身近にお見せして、他には何もできないのだけれども、音楽を提供することだけはできる、という事実こそを表明したいと願うのです。それが少しでもみなさんの助けになることを信じて。

Q. そのお言葉を伺って安心いたしました。海外の報道などを拝見しますと、日本国内のそれに比べ、どうしても大筋だけの報道になってしまっているようです。ですので、マエストロはじめMetのみなさんが、事実への誤解から、不要な心配をお持ちではないかと気になっていました。
A. 心配無用です。正確な情報をいただいております。

Q. いままさにマエストロがおっしゃったように、音楽は、ときに奇跡を起こします。絶望にあえぐ人々に希望を与えることもしばしばです。マエストロは、ご自身の身に実際に起こったご経験として、このような“音楽が起こす奇跡”を味わったことがあおりですか?もしありましたら、ぜひ教えてください。
A. 私は、音楽が起こす奇跡は、ささやかなものも含め、私たちの日常で頻繁に起こっていると思うのです。そして、そこから救われるべき悲しみの瞬間、苦しい時期というのも、私たちの人生にはいろいろとあるものです。
私は、3年前に父を亡くしましたが・・・私自身にとって、とても苦しい体験でした。その父が晩年、重い病気と闘っていたときのことです。もはや余命数週間というころ、妻と、当時10歳だった私の息子とで、父の病院に見舞いに通っていた時期に、息子が電子ピアノのキーボードを持って父の病室に行きたいと言ったのです。息子はすでにピアノを習い始めていたのですが、知っていた楽曲のいくつかを、一生懸命、父の枕もとで弾いて聞かせました。僅かな音の小編が部屋の空気を満たしたときに、私たち一家が感じ取った喜びは、まさに“音楽の奇跡”でした。肉体の苦痛を耐え忍んでいた父の表情が、喜びの涙で満たされました。与えられた命のその最後のつらい時間のなかで、父は、おそらく、心が軽く高揚するような気分を味わったのでしょう。

Q. マエストロ・レヴァインの健康状態がすぐれない、ということで、私たちは心配しておりますが、けれども同時に、彼のピンチヒッターとしてマエストロ・ルイジに日本で再会できる、というニュースが舞い込み、また心踊る期待の日を過ごすことができています。もうまもなくの日本へのご到着を心からお待ちしていますね。どうぞ、お気をつけていらしてください。
A. ありがとうございます。私も、皆様との再会をとてもとても楽しみにしています。

Q. そして、このインタビューにお答えくださっているこの時間は、まさにMetの楽屋で、本日の公演にむけてご準備中の時間ですね。ご協力ありがとうございました。今夜のご成功をお祈り申し上げます。
A. 今日の演目は《ナクソス島のアリアドネ》です。よい演奏ができるよう、がんばりますよ。

(通訳:高橋美佐)


  
いよいよ来日間近!!『メトロポリタン・オペラ』2011
http://www.japanarts.co.jp/MET2011/

『ラ・ボエーム』
6月8日(水) 19:00 NHKホール
6月11日(土) 15:00 NHKホール
6月17日(金) 19:00 NHKホール
6月19日(日) 19:00 NHKホール

『ドン・カルロ』

6月10日(金) 18:00 NHKホール
6月15日(水) 18:00 NHKホール
6月18日(土) 15:00 NHKホール

『ランメルモールのルチア』

6月9日(木) 18:30 東京文化会館
6月12日(日) 15:00 東京文化会館
6月16日(木) 18:30 東京文化会館
6月19日(日) 12:00 東京文化会館

『MET管弦楽団 特別コンサート』 売切れ
6月14日(火)19:00 サントリーホール

2011年05月02日

インタビュー5 スザンナ・フィリップス(2)(ソプラノ)[メトロポリタン・オペラ(MET)]

スザンナ・フィリップスのインタビュー第2弾です。
MET_0172.jpg

Q:指揮者について伺います。
レヴァインさんの指揮で歌うということはどういうことなのでしょうか?
―それについては本当に言葉でどうやって現したらいいのか分からないというのが私の本心です。
最初にレヴァインさんの指揮で歌えると聴いたとき、とてもじゃないけれど現実と思えなかったくらいです!彼に初めてお会いしたときの印象は、本当にあたたかく、音楽そのもので呼吸しているような方だなと思いました。
現実になるなんて、本当にただただエキサイティングに思っています!

Q:先日楽屋にお邪魔させていただいた際に、ちょっと例えが悪いんですが、野球で言うとホームランバッターが今まさにバッターボックスに入っていくというようなすごい気迫を感じたのですが、舞台に出て行くときのフィリップスさんの精神はどんな風になっているのですか?ある種のスイッチが入っているような、神がかり的な状態になっているように外からは見えたのですが?
―あははは!(笑)その例えすごくいいわ!本当にバッターボックスに入る前のあの瞬間にとても似ていると思います。
自分自身をすごく集中させなくてはいけないし、言ってみれば「ゾーン」にはまらなくてはいけないのです。
とにかく私がしていることは、人生って気が紛れてしまうことがたくさんあり、時に自分がいかにオペラを好きか、音楽を好きかということを忘れがちになってしまうことがあります。ですからこそ舞台に立つ前は今自分がやっていることは自分自身が本当にやりたいことなんだ、ということを自分自身が思い出すということがとても必要だと思っています。
そして、自分が楽しければきっと聴衆の皆様も楽しんでくれると信じています。ですからその「ゾーン」にはまり、今まで先生方にどのようなことを言われてきたか、自分が達成するためには何をしなくてはならないのかそういうことに意識を集中させます。まさにスポーツで言ったらゲームに入る前のような瞬間の集中力だと思います。

Q:先ほどレヴァインさんはアメリカ音楽のアイコン的存在とおっしゃっていましたが、たとえばヨーロッパのオペラと比べてアメリカのオペラ、METのオペラはどういうところが特徴や美点はどういうところですか?
―そうですね、全般的にアメリカのオペラハウスはヨーロッパよりも劇場そのものの規模が大きいと思います。そのことが結果的にどういうプロダクションになるかということに非常に大きな影響を与えていると思います。また、聴衆も良し悪しではなくて、全く異なっていると思います。さらにはオペラそのものの文化の中での位置づけも違いますね。
ヨーロッパのオペラハウスはより狭いと思います。ドイツのオペラハウスでは、前衛的でとんでもないプロダクションもあったりしますので、比べるのはとっても難しいことだと思います。しかしMETということになると、伝統的なものと前衛的なものの両方を楽しむことができる良さがあると最近とても感じられます。例えば、新しい「リング」のツィクルスですが、これは技術的な面でも非常に前衛的で、ライティングを駆使してある大きな機械が動くようなプロダクションもあれば、ラボエームのような美しい伝統的なオペラもあります。

Q:METのカウンシルオーディションに入って2005年に育成コースに入られたと伺いましたが、そのシステムについて
お聞かせください。スザンナさんにとっては良いことでしたか?
―オーディションは2005年ですが、METのプログラムではなくてシカゴの方のヤングプログラムに2005年から2年間行っておりました。
それは素晴らしいプログラムでした!
MET_0168.jpg

Q:最近のスザンナさんはたくさんの役柄に挑戦していますが、今後取り組んでみたい役柄はありますか?
―そのチョイスは大変です!だって全てなんですもの!(笑)
例えば次に決まっている「ランメルモールのルチア」では何箇所か歌うシーンがあるのですが、どれも本当にチャレンジで、私自身の声楽的、演劇的な幅をすごく広げてくれると思っています。もちろん、『椿姫』のヴィオレッタなども歌ってみたいと思っています。また、これは本当に夢の夢かもしれませんし、もしかしたら私には歌えない役かもしれませんが、将来的には例えば『さまよえるオランダ人』のゼンタやR.シュトラウスの「ばらの騎士」の元帥夫人などもやってみたいと思っています。それからスザンナやツェルリーナなども歌いたいと思っています。

Q:でもスザンナさんはどんどん夢を叶えていますから、その日も遠くはないのでしょうね!
−そうね、頑張るから幸運を祈っててね!

Q:プーランクの「カルメル派修道女の対話」もありましたが、それもこれから取り組むのでしょうか?
―それはもう歌いましたよ!本当に感動的な歌ですよね!私はサンタフェに行く機会があったのですが、そこでちょうどカルメル会の修道院があり、そこの近くに行くと中から本当に歌っている声が聞こえてくるのです。私の頭の中ではオペラのストーリーが広がり、同時にその歌声が聞こえてきた瞬間は本当に感動的でした!

Q:好きな歌手、もしくは影響を受けた歌手はいらっしゃいますか?
―本当は長〜いリストになってしまうんですが、ジョーン・サザーランド、マリア・カラスや、他に現在も活躍していらっしゃって私はまだお会いしたことはないのですが、シュアル・イズコフスキーさんです!


いよいよ来日間近!!『メトロポリタン・オペラ』2011
http://www.japanarts.co.jp/MET2011/

『ラ・ボエーム』
6月8日(水) 19:00 NHKホール
6月11日(土) 15:00 NHKホール
6月17日(金) 19:00 NHKホール
6月19日(日) 19:00 NHKホール

『ドン・カルロ』

6月10日(金) 18:00 NHKホール
6月15日(水) 18:00 NHKホール
6月18日(土) 15:00 NHKホール

『ランメルモールのルチア』

6月9日(木) 18:30 東京文化会館
6月12日(日) 15:00 東京文化会館
6月16日(木) 18:30 東京文化会館
6月19日(日) 12:00 東京文化会館

『MET管弦楽団 特別コンサート』 売切れ
6月14日(火)19:00 サントリーホール

2011年04月28日

インタビュー6 ポール・プリシュカ(バス)[メトロポリタン・オペラ(MET)]

METの歴史を知る、名脇役ポール・プリシュカのインタビュー。
met_2011_01.jpg

Q:来日公演で演じる「ラ・ボエーム」べノア&アルチンドロ役は、今までどのくらい演じてこられましたか?
― 何度も演じてきましたが、若い頃はコリーネの役を演じる機会の方が多かったですね。
べノア役とアルチンドロ役は、以前はバスとテノールで別々の歌手が歌っていました。
今回私は一人で両方の役を演じますが、一方の役で黒いかつらを被って演じることから、今回は彼等をひとりの人物で、“べノアが黒いかつらを被ってアルチンドロに扮している”という設定で歌ってみたいと思っています。
また、べノアという人物に関して、台詞のひとつひとつが細部まで非常によく考えて構築されているので、この役を演じるのがとても楽しいのです。これに対してアルチンドロの人物像はなかなかとらえにくいので、演じる側としては難しいですね。
ですから、この二人をひとつの役として演じることは、私はとても良いことだと思います。
歌手はどのような役を演じるにも、その役がどのような個性をもっているのかをとらえなければなりません。アルチンドロという人物像のとらえ難さ、そして、“年寄りが若い女性と一緒になろう”とする姿は、ともすれば馬鹿にされるだけで終わってしまいますので、ベノア
同一人物だという設定は、アルチンドロの人物像を良い意味で色づけできる効果があるのではないでしょうか。

Q:ベノアとアルチンドロを一人の人物として演じるというアイディアはプリシュカさんが初めてなのでしょうか?
― 「ラ・ボエーム」の上演回数は世界的にも非常に多いですし、おそらくそういった考えで演じた歌手は他にも誰かしらいたのではないでしょうか。でもMETでは私が初めてだと思いますよ。

Q:以前はアルチンドロ役をテノール歌手が歌っていたと仰っていましたが、今回プリシュカさんが歌うスコアはバスのために手直しされているのですか?
― いいえ、アルチンドロ役の声域はあまり高くないので、発声練習は必要ですが、手直しせずに歌っています。

Q:劇中ではコミカルな演技を交えて、METの聴衆の皆さんをとても楽しませていらっしゃいますね。演技中は聴衆の反応をどのように感じていますか。
― METの劇場はとても広いので、聴衆の反応がとても大きくなければ舞台の上からではなかなか気づけません。ですが、素晴らしい反応をしてくれたときは、演じる側としてもとてもインスピレーションを受けますし、大きな糧となります。
また、大きな劇場では観客席の一番遠い所まで届かなければならないので、さりげない動作の演技も大きくアクションしなければなりません。近年では劇場に字幕がついているので、全編イタリア語でも台詞の意味が分かり、聴衆の皆さんに一層楽しんで頂くのにとても大きな助けとなっています。
met_2011_09.jpg

Q:私は1991年からMETを見続けてきましたが、当時も字幕がありませんでしたね。
聴衆は字幕を読んで反応をすることもあるので、舞台上のアクションとずれてしまうことがありますよね。そこで、字幕があることによって、特に取り組んだことなどはありますか?

― 確かに何回かに一度はそういった反応のずれを感じることはあります。
そのずれに驚いてしまうことはありますが、劇場に字幕があることのメリット、デメリットを考えれば、圧倒的にメリットの方が大きいと思います。
「ラ・ボエーム」のような作品では、それぞれの役のもつエネルギーがとても大ききいので、聴衆の皆さんが舞台上の出来事に共感して、役のエネルギーに巻き込まれていくことが大事だと思います。しかし、字幕に見入っていてはそのエネルギーを汲み取れないことがあります。
ですから、聴衆の皆さんには前もって勉強をされてから聴きに来られた方が、オペラをより一層楽しんでいただけるのではないでしょうか。
オペラは簡単な芸術ではありませんので、私たち歌手にも聴衆の皆さんにとっても、勉強をすることはとても大切なことなのでしょうね。
しかし、オーケストラの演奏を楽しみにする人、歌声が好きな人や、ストーリーに関係なく音楽だけを楽しみにする人もいます。オペラの楽しみ方は、本当に人それぞれだとも思っています。

Q:1961年にデビューされて以来、METはどう変化してきたと感じますか。
― 世界最高峰のオペラ・ハウスであることは、今も昔も変わっていません。
変わった点というと、私のデビューした時代は、人間の声の質が最も重要視されていましたが、現在のピーター・ゲルブ総裁になってからは、大道具などのセットや、演じる歌手が役に合った体格であるかなど、視覚的要素を含めたオペラの全体像を重要視するようになりました。
そして最も大きな変化は、ライブビューイングの上映でしょう。
しかし、生演奏を体感するのと、映画館で見るのとは全く違います。
劇場に足を運んで得られる素晴らしい感動は味わえないかとは思いますが、オペラに身近に触れてもらい、本物のオペラを聴きに行きたいと感じてもらえたら嬉しいですね。

Q:では、今回の来日についてお聞かせください。
― 日本に行くことはとても楽しみです。
私は盆栽が趣味で、家にもたくさんあるのですが、以前来日した時には大宮に盆栽を見に行きました。6月の来日でも行けたらいいなと思っています。
また、能の劇場で働く友人がいますので、彼に会えることも非常に楽しみです。

Q:日本の聴衆の反応についてはどう感じていますか?
― 日本の聴衆は本当に勉強熱心で、オペラをよくご存知だと感じます。
しかし上演中のリアクションについては、アメリカやヨーロッパに比べるとかなり静かですね。
日本の方はその場その場で感じた気持ちに対してあまりオープンではないのでしょう。
私はそんな日本の聴衆の皆さんを、非常に礼儀正しいと思います。
上演中のリアクションがたとえ静かでも、終演後の遅い時間に、楽屋口には多くの方々がいらしてくれます。声を掛け、サインを欲しがって下さる姿に、彼等のオペラ対する熱意と愛情をとても強く感じます。
日本には熱意あるオペラ・ファンがたくさんいらっしゃるので、私たちは日本ツアーをとても楽しみにしています。

Q:それでは、最後の質問です。プリシュカさんにとってオペラとはどのような存在ですか。
― 私はよくオペラを野球に例えます。ピッチャーは、若いときは9イニングを通して投げることができますが、年齢と共にリリーフになり、最後にはクローザーになります。
私も若い頃には「ボリス・ゴドゥノフ」や「ファルスタッフ」を全幕歌えましたが、今はベノアのような役柄になってきました。ですが、ご存知のようにリリーフ・ピッチャーというのはとても大事な存在なんですよ(笑)
私は歌手として今まで様々な役を演じ、おそらく3000回以上は舞台に上がってきました。
たとえ同じ役を演じていても、日によって気分やコンディションは違います。
私にとって歌うこと、演じることは人生において終わりのないひとつの長い舞台なのです。


  

いよいよ来日間近!!『メトロポリタン・オペラ』2011
http://www.japanarts.co.jp/MET2011/

『ラ・ボエーム』
6月8日(水) 19:00 NHKホール
6月11日(土) 15:00 NHKホール
6月17日(金) 19:00 NHKホール
6月19日(日) 19:00 NHKホール

『ドン・カルロ』

6月10日(金) 18:00 NHKホール
6月15日(水) 18:00 NHKホール
6月18日(土) 15:00 NHKホール

『ランメルモールのルチア』

6月9日(木) 18:30 東京文化会館
6月12日(日) 15:00 東京文化会館
6月16日(木) 18:30 東京文化会館
6月19日(日) 12:00 東京文化会館

『MET管弦楽団 特別コンサート』 売切れ
6月14日(火)19:00 サントリーホール

2011年04月14日

インタビュー5 スザンナ・フィリップス(1)(ソプラノ)[メトロポリタン・オペラ(MET)]

太陽のような笑顔が印象的なスザンナ・フィリップスのインタビュー!
MET_0176.jpg

Q:《ラ・ボエーム》のムゼッタは周囲の人をハッピーにするキャラクターですが、
フィリップスさん自身、キャラクターと重なるように感じます。それについてどう思われますか?

―そうかもしれません。人々が笑ってくれるととても嬉しいですし、私自身人生そのものをとっても楽しんでいます!私は基本的にはハッピーな人間だと思っています。
ですから、自分とムゼッタの重なる部分もあると思いますが、彼女ほどとっちらかっていないというか、私はもう少し集中力があるかしら?(笑)

Q:《ラ・ボエーム》というプッチーニの作品の魅力についてお聞かせください。
―《ラ・ボエーム》はオペラの中心的存在だと思います。
本当に圧倒されるような感情が詰まっていて、シンプルなラブストーリーではあるけれども、数あるオペラそしてMETの中でもアイコン的存在だと思っています。
これは、ある特定の時代を描いています。全てがこのゼッフィレッリのプロダクションで再現されていると思いますし、「宝石」のようなオペラだと思っています。また、この作品の素晴らしさというのは、決して古くならないということです。初めて聴いたときも、そしてまたその後に聴いても音楽の美しさ、スコアの中にある美しさに常に感動し続けます。何回聴いても常に新しい何かを発見できる作品だと思います。私自身も100回以上この作品を聴いていると思いますが、実は2週間前にリハーサルをしていた時に、4幕目になったときに思わず涙が出てしまいました。私は普段、泣く性格ではないのですが、音楽の美しさに圧倒されて涙が出てしまったのです。それほど力のある作品だと思います。

Q:初めてご覧になった作品も《ラ・ボエーム》とおっしゃっていましたが、お幾つの時でしょうか?
―初めて観たのは12歳か13歳の時だったと思います。生まれ育ったのが南部のアラバマ州で、近くにオペラ劇場というものは全くありませんでした。しかし、年に1度両親が兄と私をNYまで連れて行ってくれて、その時にオペラを見る機会に恵まれました。元々音楽は大好きだったのですが、オペラは特に舞台美術や衣装など見どころがいろいろありますので、とにかく興奮したのを覚えています。

Q:それではオペラ歌手になろうと思ったきっかけも、METで観たオペラでしょうか?
―もちろん!とっても大きな影響を受けました。
けれども、本当に声楽家に習おうと思ったのは大学時代なんです。レッスンを受け始めたのは15歳の時ですが、その時はプロになるのかどうか分かりませんでしたし、私の周りにもそういったプロの声楽家の方がいなかったので全く想像がつきませんでした。しかしジュリアードに入学してからは、オペラ歌手になるということが現実的に考えられるようになりました。
子供の頃に観ていたMET、そこで歌うということは本当に"Dream Comes True"!!この場所で歌うということは究極の夢でもありましたし、何よりMETは最高のオペラハウスである、この場所で歌えるということは、本当に夢が叶ったってことですよね!

Q:《ラ・ボエーム》をご覧になった時に「ムゼッタ」のパートをやってみたいという気持ちはありましたか?

―もちろんです!彼女に惹かれない人が果たしているのかしら?彼女は本当に元気いっぱいで、稲妻のようにたった今いたと思ったら突然またいなくなってしまう、そういうような人間だと思います。もちろん私が一番好きな役は「ミミ」ですけど、「ムゼッタ」もみんなの元気の中の中心にいるような人間だと思います。
MET_0170.jpg

Q:いま「ミミ」のお話がちょうど出ましたが、「ミミ」と「ムゼッタ」はとても対照的な女性でまるで陰と陽というような形ですよね。ムゼッタはすごく生命力に溢れているのに対し、ミミはどんどん衰えていくようなそういった対比みたいなことをご自身で考えながら演じられているのでしょうか?
今回日本公演の場合は「ミミ」はネトレプコさんが演じられますが、いかがでしょうか?
―すべての役を演じる上で全く違うアプローチを持っていなくてはいけないのですけれども、ミミとムゼッタにおいては非常に対照的な声でなくてはいけないと思います。どちらの声が重くてどちらが軽いかは重要なことではないと思うのですが、とにかく声が対照的ではないといけないというのが1つ言えることです。
そしてまた、この2人というのは一方でそれほど違わない、違うといえば違うのですが、特に人生に対する姿勢というのはそれほど違わないとも思います。というのも、人を愛するということに全てを懸けているという面ではとても共通点があると思うからです。ムゼッタは初めからマルチェッロを愛していることに疑問を抱きませんし、ミミにおいてもロドルフォを心底愛している、そういう一途な愛という点では2人はここに同じだと思います。
それ以外のことは全く違いますけどね!(笑)

Q:「ミミ」が好きとおっしゃっていましたが、ミミを演じてみたいと思いますか?またその際に自分だったらどんなミミを演じたいなどヴィジョンがありましたらお聞かせください。
―もちろんミミを演じてみたいと思っています。役作りに関しては、自分が始めてその音楽を耳にしたとき、経験したとき、それこそまず楽譜を見たときだけでも自分だったらこんな風に歌いたいとか何かしら生まれるはずです。是非歌いたいと思いますし、それが歌えるようになった時は私にとって本当に大きな前進の時だと思っています。ですから、今からその日がとっても楽しみで仕方がありません!
でも、今は「ムゼッタ」を歌えるということにとっても満足しておりますし、どちらの役柄もとっても素晴らしいと思っています。

Q:今回のプロダクションの一番最後のシーンで、ミミが死んだときにムゼッタはマルチェッロと抱き合いそうになりながらも、一度彼を退けてから抱きつくというシーンがありますが、その部分はなにかフィリップスさんご自身の解釈があっての演出なのですか?
―いいえ、私自身の解釈ではなくて演出の一部なのよ。最初言われた時には「え、そんなことしなければならないの?」と思ったんですけれども、リハーサルをやりながら演じるようになってからは、そのタイミングが本当に素晴らしいと思うようになり、今ではその一瞬止まる瞬間が、私にとっては本当に好きな瞬間になっています。

その2へつづく ―

2011年04月01日

トランペット奏者、ジェイムズ・ロス[メトロポリタン・オペラ(MET)]

メトロポリタン・オペラが素晴らしいところは、世界のトップスター歌手たちはもちろん、オーケストラが雄弁にストーリーを語りかけてくれること。
そこで今回はメトロポリタン歌劇場管弦楽団のトランペット奏者、ジェイムズ・ロスのインタビューをお送りします。
staff_08.jpg
Q:ロスさんはセントルイスのご出身だそうですね。
もともと普通のオーケストラではなく、
「はい。カナダのラジオではオペラが放送されていて、地元にいた頃からオペラは大好き。METにはオーディションを受けて入団しました。」

Q:オペラのオーケストラならではの楽しさを教えてください。
「僕はいつも“楽器を通して歌うこと”を意識して演奏をしています。その点で、オペラのオーケストラは素晴らしい歌手たちの歌声を常に聴ける環境にあり、自分が演奏する上でもとても参考になります。さらに、ペラでは舞台で起きていることに素早く反応し、フレキシブルに演奏する能力が必要とされます。舞台で何が起こるかわからない!という楽しみがありますので、とてもエキサイティングな仕事ですよ(笑)。」

Q:舞台の上で面白い演出や物語が進行している時、つい振り向いて見てしまいたくなることはありますか。
「それはもう、いつもです(笑)。僕がMETに入った最初のシーズンに、ワーグナーのリングが上演されたのですが、演奏中にチューバ奏者の人が僕の背中を叩いて「舞台を見てみて!」と声を掛けてきました。振り向いて見てみると、そこにはまるで魔法をかけたかのような舞台が広がっていて感動したのを覚えています。オペラは音楽的要素に加えて視覚的な要素がとても重要ですし、いつも振り向いてみたくなってしまいますね。」

Q:メトロポリタン歌劇場管弦楽団の音楽的な特徴を教えてください。
「さまざまなスタイルの演奏ができる柔軟さだと思います。オーケストラ同士でお互いに意見を聞き合うこと、舞台上で起こっていることには常に心を向けることは音楽監督マエストロ・レヴァインの考えでもあります。ですからこのオーケストラには指揮者に頼るだけではなく、お互いに話し合いながら演奏をする習慣が根付いています。
そして、METの演奏を特別なものにしているもうひとつの要因に、弦楽器の音色の温かさがあると思います。また、僕が入団して以来、新しい首席奏者が次々と入団してきています。チェロやクラリネットやフルートなどには素晴らしい奏者が入団してきましたし、新しいコンサートマスターも本当に素晴らしい方々です。オーケストラがどんどん良くなっていっていることを実感しています。」

Q:ジェイムズ・レヴァインについてもお話しいただけますか?
「彼はオペラ・ハウスでの仕事に関して世界中の誰よりも深い理解力、洞察力があるマエストロです。そして何よりも彼はとても優しい方です。自分が求めるものに対して一切妥協はありませんが、とても優しい言葉で皆をそこへ導いてくれます。彼はまずオーケストラの演奏を聴き、その演奏を考慮した上で、作曲家ごとの特徴を踏まえてそれぞれ異なった要求をします。彼とは長年一緒に活動をしていますので、そういった要求にはすぐに応えることができるようになりました。お互いが深く理解しあっていますので、マエストロとオーケストラの関係はとても良い状態にあると思います。ちなみに、団員は彼のことを親しみと尊敬を込めて“ジミー”と呼んでいるんですよ。“マエストロ”ではなくてね!それは、いつもフランクな関係でいたいという彼の希望でもありました。」

Q:そういった関係が40年に渡りMETで指揮し続けてきた理由なのかもしれませんね。
「確かに、こんなに長くひとつのオペラ・ハウスと良好な関係を持ち続けている指揮者はいないですよね。このような関係があるからこそ、私たちは安心して音楽を奏でることができますし、アーティストたちは自分をさらに向上させようと挑戦し続けてもいけるのです。」

2011年03月10日

インタビュー3安楽真理子(ハープ)[メトロポリタン・オペラ(MET)]

メトロポリタン歌劇場管弦楽団のハープ奏者、安楽真理子さんのインタビューです。
レヴァイン氏から信頼されるベテランのハープ奏者です。
MET_0022.jpg

Q:METに入団して何年目になりましたか?

A:私は1995年に入団しましたので、今年で16年になります。

Q:では、もうオーケストラの中ではベテランですか?
A:それについてはあまり考えたことがないんですよ(笑)
私よりも長く在籍されている方はたくさんいらっしゃいますが、多くの方がリタイアされるなどしていますので、私が入団した頃のメンバーとは随分変わっています。

Q:安楽さんが入団された頃と比べてオーケストラに変化を感じますか。
A:そうですね、いい意味で変化を感じています。
例えば弦楽器では、私がジュリアードに在籍していた頃に一緒だった若い人や後輩達が次々と入団しており、彼等はとても優秀です。

Q:オーケストラのメンバーの出身地は、やはりニューヨークが中心なのでしょうか。
またはアメリカ全体や、外国からの人が多いのでしょうか?

A:世界中様々なところからメンバーが集まっていますね。
今ヴァイオリンには新しく入団された方がとても多いのですが、その中にはアメリカ育ちの韓国系の女性が多くいます。フルートで最近入団した方はカーティスを卒業したばかりの20歳くらいのイスラエル人ですし、新しいフルート首席2人はアイスランド人とロシア人です。新しく入団される方にはジュリアードやカーティスの卒業生など、アメリカで勉強した方が多いのですが、アメリカ人ばかりというわけではありません。
様々な人種が集まるニューヨークという町の縮図のようなオーケストラです。

Q:安楽さんから見て、ジェイムズ・レヴァイン氏はどのような指揮者ですか。
A:音楽だけではなく、すべてに対して気を配り、繊細で理知的で音楽に対してとても誠実な方だと思います。
色々な仕事に取り組み忙しくされていますが、どんなに忙しいときも周囲に気遣いを忘れない優しい方です。

Q:レヴァイン氏が考えている理想のオペラのオーケストラとはどのようなものだと考えますか?
A:彼がどのような理想を抱いているか、本当のところは分かりませんが、40年このオーケストラを率いてこられていますので、今のオーケストラは、彼の理想に近いものなのではないでしょうか。

Q:レヴァイン氏にかけられた言葉で印象的なものはありますか?
A:私は体調を崩して1年半程弾けなくなってしまった時期があったのですが、休養中や、復帰して間もない頃、偶然マエストロと顔をあわせることがあった際に「顔色が良くなってきたね」「元気そうだね」と必ず声を掛けて下さいました。長い会話ではなかったのですがとても印象的でした。

Q:来日公演の3演目には全てハープのパートが入っていますね。どちらの公演で演奏されるのですか。
A:今のところ「ランメルモールのルチア」と「ドン・カルロ」で演奏する予定です。

Q:3演目とも作曲家が異なりますね。曲中のハープの使い方から、作曲家の考えが伝わってくるかと思いますが、どうお考えですか。
A:どの作曲家もハープの特徴や音色、特殊な使い方をよく理解して作曲していることが分かります。
ヴェルディはハープを効果的に用いるために、鳴らす場所を良く選んでいます。ハープの音色が聴衆の感情にどのような影響をもたらすのかをよく分かっている作曲家なのでしょう。 
また、プッチーニは曲中にハープを多く用いるので、ハープ奏者にとっては演奏していて楽しい作曲家です。
MET_0027.jpg

Q:確かに、先日「ラ・ボエーム」を2階正面席から聴きましたが、オーケストラの音とともにハープの音がよく聴こえ、その重要性をとても感じました。
A:そうでしたか、それは嬉しいです。
「ランメルモールのルチア」や「ドン・カルロ」などの作品では、ハープにソリスティックな演奏が求められる箇所がありますが、プッチーニの作品はハープとオーケストラとの音色の調和を大事にしている印象があります。ですから、演奏する際はオーケストラの音と混ざり合って聴こえるよう心がけています。

Q:ハープと言うと“天上” “神様” “お姫様” ・・・といったイメージがありますが、どう思いますか。
A:たしかに「ドン・カルロ」の曲中では、ハープの音色は“天上”のイメージとして使用されていますね。「仮面舞踏会」の後半も、そういったイメージを目的として用いられていると思います。

Q:では次に、来日公演の「ランメルモールのルチア」で指揮をされるジャナンドレア・ノセダ氏の印象をお聞かせ下さい。
A:彼は本当に素晴らしい方です。大好きな指揮者の一人です。
数年前、ゲルギエフ指揮で「戦争と平和」をMETで初めて上演した際、最後の1公演が彼の指揮でした。
その時の指揮は大変素晴らしく、彼が最初に振り始めたその瞬間からオーケストラの皆は感激していました。
大胆でスケールが大きいのに、とても繊細な気遣いをされていて、オーケストラ皆のことをよく考えて下さっていることが、指揮を通して伝わってきました。
彼が最初にMETでデビューされた際、今後もMETで振る機会が多くなればいいねとオーケストラの皆で話していたのですが、実際にその通りとなり皆で喜んでいます。

Photo by GION


 

メトロポリタン・オペラ 日本公演の詳細は下記より
http://www.japanarts.co.jp/MET2011/

『ラ・ボエーム』
6月8日(水) 19:00 NHKホール
6月11日(土) 15:00 NHKホール
6月17日(金) 19:00 NHKホール
6月19日(日) 19:00 NHKホール

『ドン・カルロ』

6月10日(金) 18:00 NHKホール
6月15日(水) 18:00 NHKホール
6月18日(土) 15:00 NHKホール

『ランメルモールのルチア』

6月9日(木) 18:30 東京文化会館
6月12日(日) 15:00 東京文化会館
6月16日(木) 18:30 東京文化会館
6月19日(日) 12:00 東京文化会館

『MET管弦楽団 特別コンサート』
6月14日(火)19:00 サントリーホール

2011年02月28日

歌手インタビュー2:マリウシュ・クヴィエチェンのインタビュー[メトロポリタン・オペラ(MET)]

<歌手インタビュー>の2番手はマリウシュ・クヴィエチェン。
来日公演の特別コンサートはすでに売切れ!他に彼の歌声を聴けるのは「ラ・ボエーム」のマルチェッロ。
今最も輝いているバリトンのクヴィエチェンにご注目ください。
Kwiecien.jpg

Q:「ラ・ボエーム」ではマルチェッロという複雑な役柄を演じますが、どのような気持ちで取り組みますか?
― マルチェッロは素晴らしい役です。プッチーニの作品で僕が歌える貴重な役ですし、METで初めて歌った大きな役でもあり、非常に思い出深い作品だと感じています。マルチェッロは若く、そして情熱あふれる画家です。彼は絵を通して世界を変えようという大志を抱いていますが、それでいてムゼッタとの恋愛にふりまわされてもいます。ムゼッタとくっついたり、けんかをしたりして・・・。
この作品は“若さ”が最大のテーマであり、貧乏な芸術家たちの青春、という人生において特別な時期にある人間模様を描いている物語です。

Q:ゼッフィレッリ演出のこの作品は特別なものだと思いますが、いかがですか?
― 「ラ・ボエーム」という作品における、最高の“女王”と讃えても良いくらいの演出だと思っています。これ以上の「ラ・ボエーム」はありえないでしょう。とても伝統的ではあり、METでも広く愛されているプロダクションです。ご覧になったお客さまの多くは、ステージにあれだけたくさんの人がいること、素晴らしい衣装、豪華なセットなどに驚き、感動されるはずです。観れば観るたびに、感動するプロダクションだと思います。そしてご覧になっている方々が“ステージを見ている”のではなく、自分もその場面の中にいるように感じさせることができる、というところも素晴らしい。本当にこれ以上の「ラ・ボエーム」の演出というのはないのではないかと思っています。
先ほども申し上げましたが、このプロダクションは伝説的なもので、パヴァロッティ、フレーニ等もこの舞台で歌っていました。彼らがいなくなった後、その伝統を受け継いで演奏できることは素晴らしいことですし、名誉なことだと感じています。

Q:あなたにとって、見どころはどの場面ですか。
― マルチェッロという人物は、自分自身がどういう人間であるのかということに苦悩し続けます。そして、その答えは最後まで出ない・・・。もしかしたらミミが亡くなった場面で、若さというものの未熟さ、人生に対する自分自身の浅はかさを感じ、そこからマルチェッロは成長していくかもしれないのですが、それについては描かれていません。僕は、悲劇の最後のシーンでお客さんに何を感じてもらえるか、その余韻を深く感じてもらえるように幕が開いたときから演じ続けるのです。
と考えると、マルチェッロが仲間たちとクリスマスを祝い歌っている場面が、一瞬の若さがもつ華やかさが見られる場面であり、その後の哀しさをよりいっそうひきたたせる大切なシーンだと思っています。
Kwiecien_as_Marcello.jpg
<「ラ・ボエーム」より>

Q:この演目を日本で演じることをどのように思いますか。
― 日本では2004年にロバート・カーセンの演出で同じ役を演じました。今回ミミ役のアンナ・ネトレプコはムゼッタ役で出演していました。今回の公演で素晴らしいのは、同じポーランド人、ピョートル・ベチャワがロドルフォ役で出演することです。僕たちは友人役で同じステージに立ちます。同じ作品の中でポーランド人が二人も出演する機会はなかなかないので、とても楽しみにしています。僕はよく「本当に音楽の好きな人、そして音楽を心から愛し、その気持ちを表現する人に会いたければ日本に行け!」と。日本の聴衆はそれほど素晴らしいと思っていますし、日本で演じることを楽しんでいます。

Q:ネトレプコさんと親交が深いと聞きますが、彼女はどのようなソプラノですか。
― 彼女は本当に素晴らしい歌手であり、女優であり、そして良き同僚です。彼女からはいつも大きなインスピレーションを受けます。同じスラブ語族圏の出身で、ロシア人とポーランド人ではありますが、私たちは文化を共有しているように感じます。音楽や歴史も共通しているので、本当に近隣の国という親しさを感じます。彼女は豪華客船のようですね!小さいボートでは荒れて、航海も困難ですが、大きな豪華客船は快適ですし、僕が投げかけたものを懐深く受けとめてくれる、彼女はそのような存在だと思っています。今回一緒に日本に行けることを楽しみにしていますし、今後も長く彼女と色々な作品で共演していきたいと思っています。ただひとつ残念なことは、僕とアンナの共演を、僕自身が客席で楽しむことができないことです!



メトロポリタン・オペラ 日本公演の詳細は下記より
http://www.japanarts.co.jp/MET2011/

『ラ・ボエーム』
6月8日(水) 19:00 NHKホール
6月11日(土) 15:00 NHKホール
6月17日(金) 19:00 NHKホール
6月19日(日) 19:00 NHKホール

『ドン・カルロ』

6月10日(金) 18:00 NHKホール
6月15日(水) 18:00 NHKホール
6月18日(土) 15:00 NHKホール

『ランメルモールのルチア』

6月9日(木) 18:30 東京文化会館
6月12日(日) 15:00 東京文化会館
6月16日(木) 18:30 東京文化会館
6月19日(日) 12:00 東京文化会館

『MET管弦楽団 特別コンサート』
6月14日(火)19:00 サントリーホール

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。